【月報・青学陸上部】3冠に王手。接戦だからこそ見えた底知れぬ強さ (6ページ目)

  • 佐藤 俊●文 text by Sato Shun  photo by Kyodo news

「昨年はなんとなく浮かれた気持ちがあったし、準備不足でした。今年はそういうのを徹底的になくして準備してきたので、絶対に勝たないといけないと思っていました」

 モニターで見る一色は、走ることだけに集中しているようだ。トップアスリートが極限の集中状態に入り、ハイパフォーマンスを発揮することを"ゾーンに入る"というが、まさにそんな感じだ。

 そうしてヒタヒタとまるで猛獣が獲物を追い詰めるように、早稲田大との間合いを詰めていった。

「ちょっと離れて距離を置いたところから抜かした方が相手は精神的に追い詰められると思うんです。だから5km過ぎで相手が見える位置に追いついて、6kmぐらいから抜いていこうかなと思いました」

 早稲田大のアンカー安井雄一は背後が気になるらしく、後ろを気にする素振りを見せた。一色は6kmで安井に追いつくと、何ごともなかったかのように前に出た。そのままペースを落とさず、7kmを越えた時点で7秒差がついていた。

 この時、原監督はモニターを見てホッとしていたという。中村祐は伸びなかったが、1分以内でアンカーにつなげた。最大のライバルだった山梨学院大は5、6、7区で遅れて、アンカーのドミニク・ニャイロと一色の差は2分40秒になっていた。これではいくら大学最速ランナーでも追いつくのは難しい。強敵は"つなぎ"の3区間で自滅し、恐いものはなくなった。一色の力を知る原監督に、もはや負ける要素は見つからなかった。

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