【マラソン】日本女子マラソンは、なぜここまで低迷してしまったのか (2ページ目)

  • 折山淑美●文・取材 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kitagawa Toshihiro

 レース後、日本陸連の酒井勝充強化副委員長は「もう少し積極性を持ってチャレンジして欲しかった」と苦言を呈する。また武冨豊・女子中長距離マラソン部長は「那須川の自己ベスト+1分は頑張ったと評価してもいいと思うが、終盤でもう少しスピードアップできるスタミナを付けていく必要があると感じた」と言う。チェロメイが36.9㎞の折り返し過ぎで、後続との大差を確認して力を抜いたのは明白だ。もし最後までキチッと走れば、自己記録+30秒強の2時間22分ソコソコは出していたはず。風が強くてもそのタイムで走れることが世界トップレベルの基準でもあるのだ。

 かつてはシドニー、アテネ五輪で2大会連続の金メダルを獲得した日本女子マラソン。当時は最初の入りそのままにいけば、2時間20分を切れる5km16分40秒のペースが常識だった。シドニー五輪代表選考会だった99年東京国際女子マラソンでは、山口衛里が20㎞までを5km16分20~30秒台前半のラップタイムで突っ込み、2時間22分12秒で優勝した。そんな走りをしなければ代表にはなれないという思いが強かったからだ。だが今はペースメーカーがいても、ゴールタイムが2時間23分見当の5㎞17分00秒。

「以前はハーフマラソンも1時間10分を切るのが普通だったが、今は10分を切る選手はいないから、16分40秒を設定しても付いていける選手がいないのが現状」と話す武冨部長は、今は以前より選手の体力が落ちているとも言う。マラソンをやりたいという選手はいても、いざやるとなるとケガが多かったりしてスタートラインに立てない。結局は大会に出る選手が少なくなっている。

「それ以上に選手の姿勢を見ていて、練習や記録への貪欲さがなくなっていると思う。以前は『頑張ればメダルや入賞も可能だ』というのがあったが、今はケニアやエチオピア勢が強くて最初から諦めている選手も多いし、そこを無理やりやらせる指導者も少なくなっていると思う」(武冨部長)

 関係者の中には、「今の指導者は厳しさが足りない」という人もいる。無理に練習させてケガをされれば、駅伝も走れなくなる。そんなジレンマがあるのは確かだ。しかし、結局は選手自身が『強くなりたい』と思う気持ちを持つかにかかっている。

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