作家が車いすテニス選手と対談して知ったリアル。書く前に聞きたかった! (2ページ目)

  • 荒木美晴●構成・文 text by Araki Miharu

■悲しい心の叫び「あんなの、テニスじゃない......」

―― ヒロインのひとり、宝良は交通事故で車いす生活になり、さまざまな葛藤を乗り越えて車いすテニスプレーヤーとして活躍していきます。大谷選手もインターハイ出場を経験し、その後車いすテニスプレーヤーに転向されたわけですが、読まれた感想はいかがですか?

大谷 宝良ちゃんがあまりにも自分と重なる部分が多くて、もう涙、涙で読ませていただきました。テニス選手だった宝良ちゃんが事故で脊髄損傷になって車いすテニスを初めて観た時に、「あんなの、テニスじゃない」って思ったシーンがありましたよね。私は病気で障がいを負いましたが、それは私も実際に感じたことでした。自分も体験会に参加したあと、すぐに車いすテニスをやろうと思えなかったのは、自分が知っているテニスと違うと思ってしまったからなんです。そこがすごくリアルで、泣けてしょうがなかったです。

阿部 実は書く時も、書き終わってからも、ずっと怖いと思っていたんです。何が怖いかって、自分の捉え方が間違っていないか、無神経なんじゃないか、本当は何もわかってなくて書いているんじゃないかって......。踏み込んだ内容なので、ずっと心に残っていて。なので、今そう言っていただけて私も胸がいっぱいです。

大谷 私もテニスを小学生で始めて、高校ではインターハイに出場して、そのあと裏方に回ろうと思ってトレーナーを目指しながら、テニスクラブでアシスタントコーチとかをやっていました。でも、そのアシスタントコーチを始めた数カ月後に病気で車いすになって、テニスを離れることになって......。テニスだけの人生を過ごしてきたから、テニスがなくなって、本当に何をしたらいいのかわからなくなってしまった。それが原因で引きこもった時期もありました。作品を読んでいて、自分そのものだなって思っていました。

―― 阿部さんは、そのシーンをどういうふうに作っていったか覚えていますか?

阿部 私、根っからの文化系でスポーツの経験がまったくないんですよ。ただ、自分にとっての小説が、たぶん宝良にとってのテニスなんだろうなと考えました。私には小説しかなくて、もし小説を書けなくなるとしたら、きっと物を考えられなくなるということだろうなと。その時に、周囲の人に「代わりにこういうのもあるよ」と言われても、「そうじゃないんだよ」ってすんなりいかないだろうという気持ちがあったので、その通りに書きましたね。

大谷 私、<side百花>にある宝良ちゃんの『それができないならもう何もいらない。代用品なんか私はほしくない。こんな身体も人生はいらない。テニスができないなら何の意味も価値もないから』という言葉のところに、付箋を貼っているんです。車いす生活になって、すごく悲観的になって、このセリフをそっくり母に言っていて。八つ当たりしてしまったんです。母もやっぱりショックを受けていましたし......。あぁ、今でも泣けちゃうな。それが本当に申し訳なかったなと思うし、今は車いすテニスを頑張って結果を残すことが、その時の償いになるのかなと思っていて。辛いときはそれを考えるようにしています。

阿部 あぁ、私も泣きそうです。

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