女王の意地、新人の台頭。
日本が車いすテニス強豪国となる日は近い

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

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 頂点を掴み取った一打も、この試合の「キー(鍵)」だと見定めていたバックハンドの強打だった。

 試合前日の夜から「とてもエキサイト」して挑んだ、4大大会初の日本人決勝。その注目の一戦を制したのは、これがグランドスラム26大会目となる、第一人者の上地結衣だった。

4大大会初の日本人決勝を実現させた大谷桃子(左)と上地結衣(右)4大大会初の日本人決勝を実現させた大谷桃子(左)と上地結衣(右) 決勝の相手の大谷桃子は、年齢では上地のわずかひとつ下の25歳。ただ、車いすテニスを始めて、まだ5年。2週間前の全米オープンが初めて踏んだグランドスラムの舞台で、今回の全仏が2度目という、この世界では新人だ。

 なお、上地と大谷は先の全米オープンでも初戦で対戦。その時は、上地が6−2、7−6でニューフェイスの挑戦を退けた。

 大谷というライバル候補の国内からの出現は、上地が切り開いた土壌の産物でもあるだろう。

 今回の全仏の準決勝で、上地と大谷はいずれもオランダ選手を破った。そのオランダこそは、女子車いすテニス界に君臨する強豪国。1990年代から2000年代にかけて活躍したエステル・フェルヘールというレジェンドが道を開き、現世界1位のディーデ・デフロートら後進が先人の残した轍(わだち)に続いている。

 名選手が輩出されるオランダの秘訣を、上地は「スター選手が歴代いるのが大きい」と目した。スター選手の活躍がテレビ等で報じられるからこそ、人気や認知度も上がる。オランダでは子どもたちが車いす競技を始める時、最初に手に取るのがテニスラケットだという。

 その先駆者としての道を、今、上地自身が歩んでいる。

 佐賀県の大学で車いすテニスを始めた大谷は、その地で出会った古賀雅博コーチに師事し、本格的に打ち込み始めた。

 ただ、コーチの古賀にしても、車いすの経験はない。ボールを打ち合うことはできても、車いすの動かし方を教えることはできなかった。

「自分も車いすに乗ってみないことには、教えようがない」

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