車いすラグビーで世界一になるため、池透暢は主将の役割を「捨てた」 (2ページ目)

  • 荒木美晴●文 text by Araki Miharu
  • photo by AAP Image/AFLO

 2015年に代表キャプテンに就任してから、これまでビッグゲームのたびにチームメイトに寄り添い、高いモチベーションを共有し、それを自身のパフォーマンスにつなげてきた。だが、このアメリカ戦の時だけは、異なる心境だった。

 池は仲間への声掛けや、チームを鼓舞するリーダーの役割を仲間に預けた。そして、自身は試合のスタートから終了のブザーが鳴り終わるまで、一切感情を動かさず、自分のプレーだけに集中した。リオで倒せなかった相手の鉄壁の守備を連携プレーで攻略。アメリカが強力なプレッシャーをかけるなか、池は3度のターンオーバーを成功させ、相手の攻撃の芽を摘んだ。

 試合は51-46で日本が勝利。「自分史上、最高のパフォーマンスが出せたゲームだった」と、池にとっても確実に選手としてステップアップした瞬間だった。

 キャプテンの覚悟を仲間たちも支えた。声かけは副キャプテンの羽賀理之(まさゆき)が担い、コートに出ないメンバーはベンチから的確な指示を出し、仲間を奮い立たせた。

 車いすラグビーはベンチに12人の選手が入り、その中から4人のラインナップを作りコートに入る。選手交代の回数に制限はない。相手チームの戦略に対して様々なラインナップを使うこともあるが、それでも試合に出られない選手が出てくる。

「その選手たちがいかにベンチでいい仕事をするかで、チームの総合力が変わってきます。この時、日本代表はスタッフも含めてすごく完成されたチームだと感じていたし、実際に選手やスタッフそれぞれが自分の役割を最大限に発揮したのがアメリカ戦でした。僕が自分に集中できたのは、ベンチへの信頼があったからです」と、池は言い切る。

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