パラトライアスロン秦由加子。「大腿義足で5kmを走る」ことの凄さ (2ページ目)

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • photo by MATSUO.K/AFLO SPORT

 1981年生まれの秦は幼いころから水泳に取り組んでいたが、13歳のとき、右脚に骨肉腫を発症し大腿部から先を切断。義足生活になって以来、しばらくスポーツから離れていた。社会人となり、地元で障がい者の水泳チームが発足したことを機に水泳を再開。泳げる喜びを力に変え、2010年にはパラ水泳日本代表として、アジアパラ競技大会(中国・広州)にも出場した。

 しかし、2012年ロンドンパラリンピックへの出場は叶わず、心機一転で始めたのがトライアスロンだった。

 距離はオリンピックのちょうど半分で、スイム750m、バイク20km、ラン5kmの合計25.75kmで競うが、ひとりで3種目をこなしてゴールを目指す過酷さは同じだ。

 スイム以外では、ほぼ素人だった秦にとって大きな挑戦だった。義足で走った経験はほとんどなく、競技用自転車を漕ぐために義足の改造も必要だった。左右の脚筋力が異なるため、トレーニングにも工夫が不可欠で、さまざまな痛みもついてまわった。

 それでも苦労が大きいほど、ゴールでの達成感は格別だった。トライアスロンに魅了された秦は次第に、国内外で存在感を放ちはじめる。2014年から出場している横浜大会をはじめ、ワールドカップなど世界大会でも表彰台に立つようになる。そして、トライアスロンが初めて正式競技となったリオパラリンピックの代表も勝ち取った。

 だが、表彰台を目指したリオでは6位入賞にとどまる。「もっと強くなりたい!」と、秦はリオ後、競技環境にさまざまな変化を加えていった。

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