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新濱立也「まず視界に入っている相手を倒す」。急成長の背景は「最後の100m」と「リラックス」 (3ページ目)

  • 宮部保範●取材・文 text by Miyabe Yasunori
  • 田中 亘●撮影 photo by Tanaka Wataru

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カギは「最後の100m」と「リラックス」

 スピードスケートの500mはスプリント種目とされるが、競技時間は30秒以上で、スタート時の爆発的スプリントとミドル系の身体能力を併せ持つ必要がある。高校時代にインターハイで500mと1000mの2冠を獲ったとはいえ、新濱自身、1000m向きではないとも語っている。バンクーバー五輪銅メダリストの加藤条治のように500mに特化してもよいのではないかとも思えるが、なぜ過酷なミドル系のトレーニングを率先して行なってきたのか。

「本当だったら500mに全フォーカスするのがいいとは思うんです。ただ自分が500mというよりは1000m寄りのスケーティングをしているところがあって、要は"走れない"んです。滑らせるスケーティングで、500mを走るのではなく滑っている部分があるので、500mにフォーカスして今以上に脚を動かすと、自分の滑り方が変わってしまう。1000mに出ていないと滑り方が崩れてしまうので、500mも1000mも世界で戦えるようにという意識でやっています。1000mがあるから500mが成長できていると思うんです」

 スピードスケートの500mには、スタートの加速から300mまでを駆け抜けるタイプと、最初のカーブでスピードに乗り最終コーナーを回ってもなお伸びてくるタイプの選手がいる。特に、中長距離の層が厚いオランダの選手は、最後の100mで追い込んでくる。

「スプリンターだけでなくミドルの選手とも刺激し合うなかで、筋持久力が一気に身につきました。ただ自分が大事にしているのは、パワーだけではありません。まず同走の相手に勝つ、勝たなきゃ勝負にならないというのは、常日頃思って練習もそうですし、レースでも大事にしています。まず自分の視界に入っている相手を倒さないと、優勝はできない。一緒に滑る相手に負けないというのが自分のレースの大前提で、そのあとに順位がついてくる。同走に勝って優勝するのを第一目標にしています」

 世界を転戦するうちに、最後の100mが勝負のカギになると新濱は気づいた。たとえ相手がレース後半で伸びてこようとも、自分が最初にミスをしたとしても、体半分を巻き返せる自信ひとつあれば、勝てると感じた。

「最終コーナーを出て体ひとつリードされていると厳しいかなとは思うんですけど、どんな状況でも最後は仕掛けているので、最後の100mが弱い選手だったら差せますし、後半伸びる選手でも体半分くらいなら差せる。今は体半分の差があったとしても自信があるから、最後勝負しにいけます」

 最終コーナーで減速する選手は多い。減速せずとも理想のコースから外れ、タイムをロスする姿はオリンピックでも散見される。トレーニングに裏打ちされた脚への自信と、転倒などでゴールすらできずにいた高校2年の頃から燃え続ける勝ちへの欲求を持ち合わせる新濱だからこそ、レース終盤に勝負を仕掛けられる。

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