クライマー野口啓代の目に涙。五輪内定でライバルも認めた「すごみ」

  • 津金壱郎●取材・文 text by Tsugane Ichiro
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 東京五輪での競技生活の大団円に向けて、野口啓代(あきよ)が最大の難関を通過した。

 クライミング世界選手権は8月20日に女子コンバインド決勝が行なわれ、ヤーニャ・ガンブレット(スロベニア)が2連覇を達成。日本代表は野口がスピード7位、ボルダー1位、リード3位で総合2位となって、「日本代表のなかで世界選手権のコンバインド7位以内になった最上位選手」という条件をクリアし、東京五輪の日本代表に内定した。

東京五輪代表の内定を決めて涙を浮かべる野口啓代東京五輪代表の内定を決めて涙を浮かべる野口啓代「夢みたいで信じられない」という結果を手繰り寄せたのは、得意種目のボルダリングだった。

 コンバインド決勝の1番目のスピードは7位と出遅れたものの、続くボルダリングは「びっくりするくらい落ち着けていた」状態で臨み、全3課題を2完登してボルダリング1位を獲得。最終種目のリードでも完登目前まで登った。

「私はもともとスピードの順位勝負じゃなかったので、タイム順で6位だったのが7位になっても、ダメージは受けなくて......。それよりは、ボルダーで1位を取りたいと考えていました。朝から不安しかなくて、いい精神状態じゃなかったんですけど、ボルダリングになった瞬間にすごく集中できて。意識してというより、勝手にボルダーの時にいい状態になっていました」

 プレッシャーのかかる大舞台の、ミスの許されない局面で実力をいかんなく発揮する――。これこそが、30歳になっても第一線に君臨している野口の"すごみ"だろう。

 決勝5位の野中生萌(みほう)は「あらためて啓代ちゃんのすごい粘り強さを間近に見せつけられた」と讃えれば、同6位の森秋彩(もり・あい)は「野口さんは疲れていても、気持ちがすごく強くて結果を出す」点に野口との大きな差を感じると明かす。背中を追う後進に、そう感じさせる根底にあるもの......それは、野口の次の言葉に詰まっている。

「ずっと『オリンピックが最後』と、自分にプレッシャーをかけ続けてきました。ボルダリング、リード、スピード。全部の種目でしっかりとトレーニングをし、努力してきた。ひとつがダメだとしても、まだふたつ残っていると思っていました。今日の試合中に何かがあったわけではなくて、これまで積み上げてきた自信がありました」

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