2019.08.22

クライマー野口啓代の目に涙。
五輪内定でライバルも認めた「すごみ」

  • 津金壱郎●取材・文 text by Tsugane Ichiro
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 東京五輪での競技生活の大団円に向けて、野口啓代(あきよ)が最大の難関を通過した。

 クライミング世界選手権は8月20日に女子コンバインド決勝が行なわれ、ヤーニャ・ガンブレット(スロベニア)が2連覇を達成。日本代表は野口がスピード7位、ボルダー1位、リード3位で総合2位となって、「日本代表のなかで世界選手権のコンバインド7位以内になった最上位選手」という条件をクリアし、東京五輪の日本代表に内定した。

東京五輪代表の内定を決めて涙を浮かべる野口啓代「夢みたいで信じられない」という結果を手繰り寄せたのは、得意種目のボルダリングだった。

 コンバインド決勝の1番目のスピードは7位と出遅れたものの、続くボルダリングは「びっくりするくらい落ち着けていた」状態で臨み、全3課題を2完登してボルダリング1位を獲得。最終種目のリードでも完登目前まで登った。

「私はもともとスピードの順位勝負じゃなかったので、タイム順で6位だったのが7位になっても、ダメージは受けなくて……。それよりは、ボルダーで1位を取りたいと考えていました。朝から不安しかなくて、いい精神状態じゃなかったんですけど、ボルダリングになった瞬間にすごく集中できて。意識してというより、勝手にボルダーの時にいい状態になっていました」

 プレッシャーのかかる大舞台の、ミスの許されない局面で実力をいかんなく発揮する――。これこそが、30歳になっても第一線に君臨している野口の”すごみ”だろう。

 決勝5位の野中生萌(みほう)は「あらためて啓代ちゃんのすごい粘り強さを間近に見せつけられた」と讃えれば、同6位の森秋彩(もり・あい)は「野口さんは疲れていても、気持ちがすごく強くて結果を出す」点に野口との大きな差を感じると明かす。背中を追う後進に、そう感じさせる根底にあるもの……それは、野口の次の言葉に詰まっている。

「ずっと『オリンピックが最後』と、自分にプレッシャーをかけ続けてきました。ボルダリング、リード、スピード。全部の種目でしっかりとトレーニングをし、努力してきた。ひとつがダメだとしても、まだふたつ残っていると思っていました。今日の試合中に何かがあったわけではなくて、これまで積み上げてきた自信がありました」