日本男子スピードスケートの進化に、新濱立也の「鈍感力」が必要だ (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 藤田孝夫●写真 photo by Fujita Takao

 結局、1位は新濱になったが心境は複雑だった。

「今日は順位よりも自分のタイムを更新できたことの方がうれしかったです。ただ、今の状態で小さな第2カーブをどのくらいで回れるかも知りたかったので、アウトスタートをやってみたかったですね」

 昨年5月に強化選手としてナショナルチーム入りした時は、日本のトップになることや、33秒台を2回も出せることなど想像すらしていなかった。

 コーチ陣からは「クリズニコフに勝つぞ」「33秒台を出せる力がある」と言われていたが、そこまでの自信もなく「実力もまだまだと思っていた」という新濱は、笑いながら「冗談でしょう」と受け流していたという。だがそれから10カ月あまりで、ここまで成長した。

 今大会、33秒台を出したにもかかわらず「とくに何か違う感覚があったということはない」と言う鈍感力も魅力のひとつだ。

「映像を見ても全体的な滑りの技術は少しずつよくなっていると思う。ただ、コーナーワークに関しては本当に100%出し切れたという感覚はあまりなくて、まだまだ未熟なので、そこは成長していきたい。それができれば、クリズニコフとも戦えるのではないかと思っています」

 ナーバスになったことはなく、この日もレース直前まで笑顔を見せていた新濱。髙木美帆の1500mの世界記録樹立の瞬間も、控室で寝ていて見損ねたと苦笑する。そんな図太さを持つ22歳が、22年北京五輪のメダル候補へと育っていくはずだ。

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