【ノルディック複合】銀メダリスト・渡部暁斗が語った「ようやく自分の翼を広げられる」 (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi photo by JMPA

 そんな精神的余裕が効果を発揮したのは、ソチ五輪での初戦に行なわれたノーマルヒル個人だ。

 メダルへのプレッシャーは大きく、ジャンプの試技でミスを出しながらも、本番ではキッチリと飛ぶことができた。「暖かくなって雪も緩んでいるので、クロスカントリーでは自分の良さを発揮できる」という思いが心の底にあったのだろう。クロスカントリーで後続のライバルたちを20秒以上離し、6秒先にいる今季W杯7勝のエリック・フレンツェル(ドイツ)とレースを作れるようになった瞬間、暁斗はメダル獲得の大きな手応えを感じたはずだ。

 獲るべくして獲った銀メダル――。それをもたらした要因のひとつは、「五輪は4年に一度、向こうからやってくるもの」という考え方だ。

「最大の目標は、世界一になること。それは五輪や世界選手権ではなく、本当の強さが必要なW杯総合優勝です。五輪はそれを狙う過程で、時々飛び込んでくる試合でしかない、と思っています」

 だが、五輪でメダルを獲らなければいけない理由もよく分かっている。現在の日本では、評価されるのはW杯ではなく、五輪だ。目標とするW杯総合優勝へ向けて競技を続けるためには、資金がいるし、支援や応援も必要だ。それらを得るためには、五輪で結果を出して注目してもらわなければならないのだ。

「五輪でメダルが獲れたのは、僕にとってすごく大きいことです。これでようやく、自分の翼を広げることができる。メダルを獲らなかったら、いくら『五輪よりW杯の方がレベルは高い』と言っても、なかなか信じてもらえないから。でも、メダルを獲ったから、そういう言葉も少しは意味のあるものとして受け止めてもらえると思います」

 ノルディック複合を職人のような気持ちで突き詰めて、世界一になりたい――。その道を邁進するために必要な五輪メダルを手にした暁斗は、すでに冷静な視線をその先の戦いへと向けている。


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