【ノルディック複合】銀メダリスト・渡部暁斗が語った「ようやく自分の翼を広げられる」 (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi photo by JMPA

 成果は、その冬に出た。W杯開幕戦のクーサモ(フィンランド)で自身2度目の表彰台となる2位に入ると、翌日は3位。そして、W杯終盤の2012年2月から4勝を挙げ、総合2位を獲得した。そして翌2012-2013年シーズンは表彰台に6回上がり、総合3位という安定感を見せたのだ。

 暁斗は、自分が取り組んでいるノルディック複合という競技について、「中途半端な能力しかなくて、器用貧乏みたいな選手がやっている競技なのかもしれません」と自虐的に表現する。

「たとえ複合でトップになっても、ジャンプやクロスカントリーの専門種目と比較すれば、トップには遠い。そんな競技だからこそ、ある程度は斜に構えて考える方が、複合で大成するんじゃないでしょうか。『あんなに遠くへは飛べない』とか、『あんなに速くは走れない』と分かっていながらやらなければいけない競技ですから」

W杯の方がレベルは高いと信じてもらうため

 ただ、スキーが本当に好きだという気持ちでは、複合の選手はどの競技にも負けていないはずだと暁斗は語る。ジャンプやクロスカントリー、アルペンスキーなどすべての競技を総合して争う、「真のキング・オブ・スキー」種目があれば、優勝するのは複合の選手だという自負もある。

 スキーが本当に好きだからこそ、「どうすればもっと遠くへ飛べるか」「どうすればもっと速く走れるか」ということを考え続ける。それが、たまらなく面白い。暁斗は、センスで競技をしているというより、理論で考え、それを実践して自分を向上させたいと願うタイプだ。

 今季の彼の走力アップは、そんな面から生み出された。最後のスプリント力があるライバルに勝つためにはどうすればいいのか。コースの形状や雪質や気象条件はどうなのか。すべての要素を総合的に考える行為こそ、渡部暁斗の真骨頂だろう。

 河野ヘッドコーチはこう言う。

「現在の暁斗の安定感は、走力の向上によるところが大きいですね。以前はジャンプでトップに立たなければ勝負できない状況でしたが、今季はスプリント力が向上しているので、ジャンプを『ほどほどで大丈夫』という余裕のある状態で飛べています」

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