ジャンプ、葛西紀明7度目の五輪で「狙うは金メダル」 (4ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 千葉茂●写真 photo by Chiba Shigeru(人物) photo by AFLO SPORT(競技)

 そんな苦労も水の泡になり、これからどうすればいいかわからなくなった葛西を救ったのが、所属する土屋ホームがフィンランド人コーチを呼んでくれたことだ。前傾し過ぎないジャンプの方が飛べることを知り、サイズ規制で始まったジャンプスーツ開発合戦など、マテリアルへの対応も迅速にやってくれた。その結果、03年の世界選手権で個人、団体合わせて3個の銅メダルを手にし、コーチへの信頼感も深まっていった。そんな状況の中で葛西のジャンプに対する気持ちが徐々に変化し始めていった。

「ジャンプ競技はスポーツの中で一番難しいと僕は思っています。特に五輪となれば4年に1度しかない。そこで1試合2本しか飛べなくて、しかも100分の何秒かで踏み切りのタイミングや方向、パワーをすべて合わせなきゃいけないし、そのうえ風の運もある。そのすべてが揃わなければ多分、金メダルは獲れないんですよね。1本目で失敗したら、金メダルを獲るまでに挽回出来ない。だからその瞬間に『ハイ、さようなら。4年後ですね』ということになっちゃうんです」

 6回目の五輪だったバンクーバーの頃からは、五輪に対する気持ちも変わってきた。

「メダルを獲れなかったのも、『そういう運命だったな』と思えるようになったんです。緊張してダメだったのもそうだし、風が来なかったとか失敗したとかも、『今は獲るな!』ということだったと。だから、いつかそういう時が来るのを信じてやり続けています」

 葛西がここまで現役を続けられている大きな要因は、身体能力の高さだ。20代の頃から血を吐くくらいに鍛えてきたというが、今でも自宅にトレーニング室を作って夜中にウエイトトレーニングをしたり、遠征先でも毎朝必ず走りに出るなど体力を維持する努力を続けているのだ。

 ただ、かつては身体能力が高いがゆえに踏み切り動作に荒さが出て、身体能力の高さが裏目に出てしまう部分もあった。それが、膝を痛めたこともあって「維持するトレーニングが多くなった」という最近は、以前よりスムーズな飛び出しになっている。それについて葛西も「確かに20代の頃より筋力は落ちているけど、その状態が今の技術にマッチしているのかもしれない」と語る。

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