宇野昌磨は本田真凜とのアイスダンスで新境地を切り開く 高橋大輔の証言とも重なる課題と楽しさ (2ページ目)
宇野はアイスダンスの本質に向き合いながら、調和する楽しさも感じていた。
それは、アイスダンス1年目の高橋大輔の証言とも重なるものだった。
「課題しかないです」
新競技に挑み始めたばかりの高橋は、現実と真摯に対峙していた。
「今までひとりでやってきたので。自分の思いだけでなく、ふたりでやっていく、という気持ちの面でまず違う。人と気持ちをすり合わせるというか、そこから変えていく必要があると思います。お互いをよく知ることが、最初の段階で」
一方で、高橋はこう言葉を継いでいた。
「アイスダンスを、もっと知りたいと思いました。そうすれば、スケートの広がりが感じられるはずで。今の自分は(スケートに関して)競技者か、プロか、その境をなくしています。どっちか、というのはありません。もちろん勝たないと注目してもらえないし、形としては競技者になりますけどね」
宇野も競技者か、プロか、という境界線をなくした演技を見せることになるだろう。
ショー終盤の『ポエタ』はフラメンコの楽曲で、ふたりはより近い距離で滑った。それぞれの衣装の黒と赤が混ざり合うようで、実際、宇野は全身が黒で、本田は赤いドレスだったが、右半身は黒い布で覆われていた。ふたりが同じステップを踏むと、スパニッシュギターの弦を弾く音に調和した。そして律動が上がると、狂おしい激情が増していった。
「日々が楽しいですね。毎日たくさんの練習を積み重ね、"もっとこうしたい"って」
宇野は朗らかな声で言う。
「(ショーの準備は)練習内容が濃く、量も多くなるほど、さらに求めてしまいますね。試合をやるだけよりも、圧倒的に体力が使われていて。今は思い残すことがないほど全部やって、日々成長できている実感があるので、"今日はここができた"ってひとつひとつクリアしながら。結果、これから臨む競技の場で、自分たちが望むものができたら、きっと誇りに思える、感動できる現役生活になる予感があります。まだまだ過ごした時間は短いですが」
彼はアイスダンス競技のシーズンに向けて準備しつつ、ショーではシングルソロも含めて仕上げながら、座長としても全体をけん引している。複数のミッションをやり遂げる苦難に挑むことを、どこかで楽しんでいるようだった。それが革新につながり、新たな自己の創出につながることがわかっているのだろう。現役に戻ることでスケートへの没入感が増し、その深淵に近づいたのか。
「こうしたインタビューの感じも、現役選手に戻ったなって感じています」
宇野はそう言っておどけ、こう付け加えた。
「ストイックさのところでは、これがアスリートだなって実感しています。でも、このメンバーでアイスショーを続けていきたいっていうのもあって。現役選手だけど、アイスショーや社会人として違う部分も頑張りつつ。生きていくために頑張らないといけないなって思っています」
アイスショー『Ice Brave』では、そうして殻を破りつつある宇野の姿を目撃できるだろう。愛知公演後は、8月8、9、11日に東京辰巳アイスアリーナで全6公演が行なわれる予定だ。
著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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