宇野昌磨がアイスショーで見せた競技者と表現者の2つの顔 本田真凜とのアイスダンスとソロでの演技の両立 (2ページ目)
宇野は毎日、アイスダンスのトレーニングとアイスショーのプロデューサー業という競技者と表現者の狭間に立って、改善、進化する欲に突き動かされていた。たとえば、この日のソロでは『Dancing On My Own』も全力で滑った。シングルとダンスはスケート靴からして違い、後者はジャンプを一切跳ばない。そこで宇野は果敢にトリプルアクセルを跳び、珍しく転倒した。
「久々っぽいジャンプをしていましたね」
宇野はそう言って照れ笑いを浮かべた。
「正直コンディションが最悪で、もし試合だったら"こんな練習しない"というほどギリギリまで練習して、"体力的に跳べない"とも思ったんです。でもお客さんがいっぱい来てくださり、アイスダンスをやるなかでも"ソロの演目でもちゃんとジャンプで高難易度を入れる"とショーを作る側としては見所だと考えて。思い切りいったんですが、横から落ちました(苦笑)。痛さよりも、万全のときは跳べていたので悔しかったですね」
満員の観衆の情熱に呼応するように、宇野自身も湧き上がる気持ちを感じていた。それは表現者の目覚めだった。一方、競技者に戻ったことで、一挙手一投足に勝負の真剣さも滲み出ていた。
ふたつの衝動は、これからどんな化学変化を起こすのか。
「前よりもスケートを見る機会は多くなって、それはシングルで現役を引退したからこそかもしれません」
今年4月のインタビューで、宇野はそう語っていた。
「(シングルの)現役のときは、時間があればゲームができてラッキーでしたが、今は自分がスケートすることも、スケート以外の仕事をすることも、自分の時間だけでなく、みんなの時間を使って成り立っていることで、より責任感は出てきたというか。現役のときとは違って、今は『やれ』って言われてやっているわけでなく、やりたいからやっている。こういうことをできるようになりたい、という気持ちが自然と湧いてくるんですよ」
ショー終盤、宇野はアイスダンスのポエタからボレロの流れで、得意のクリムキンイーグルをサービスで披露した。大歓声の中、力を使い果たし、瞬間的に氷の上に倒れ込んだが、中心でライトを浴びたときは明るい表情で拍手に応えていた。そしてアンコールで出てくると、最後の最後にトリプルアクセルを何とか着氷し、元世界王者の意地を見せた。アスリートであり、同時にプロだった。
「今日は、今日に向けて"もっとやればよかった"と思わないように全力で練習してきた確信があります。だから、ちゃんと今日まで頑張った自分やみんなを称賛してあげたい。今はもっと上手くなれる努力をし続けているんで」
そこにある今に全力で取り組み、今の最高点を叩き出す、という刹那の取り組み方は、やはり宇野そのものだ。
著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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