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羽生結弦「運命は本当にすごくもろくて」 新単独ショー『エコーズ・オブ・ライフ』で表現する哲学 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【奇跡を感じてもらいたい】

 そして、運命という言葉への思いについて羽生はこう語る。

「いろんな哲学書を読み直して、『運命』というのが、偶然が連なっていることを学んでいって。なんか本当にすごくもろくて、なんでこんな偶然がつながっていったんだろうというような運命が、人それぞれきっとあるんだろうなって思って。それが皆さんの中で、いろいろ振り返った時に、または現在進行形でその運命を感じているような時に、滅多に出会えないような偶然の出来事に出会えたんだという喜びであったり、奇跡みたいなことをぜひ感じてもらいたいなって思って綴った文章のひとつです」

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 休憩から再開した第2部。自身の命の意味を知った中での孤独な舞と、映像で綴られる無限の階段を上り続ける行為。その中で見つけたのは、荒廃した大地の中から発生してくる命たち。その再生を歌い上げるプログラムが『ダニー・ボーイ』だった。

「戦闘のシーンもあったので、すごくハマると思った」という演技は、過去2回のアイスショーで見たものとはまた違っていた。命の優しさとうれしさを舞い上げているような、晴れやかな気持ちがじんわりと伝わってくるような、しっとりとした心の滑りだった。

 そして命の答えにたどり着いたNovaは、舞い降りてくる文字を自分の体で受け止め、次のプログラム『全ての人の魂の詩』では、上空から降ろされたいくつもの扉を通り抜けて新たな世界へと歩み出す。

 その瞬間には、緊張し続けていた心の中に清涼な風が吹き込んで通り抜けていったような、清々しい気持ちになるストーリー。羽生結弦という存在のうれしさを、またあらためて噛みしめることができた2時間半だった。

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著者プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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