羽生結弦「運命は本当にすごくもろくて」 新単独ショー『エコーズ・オブ・ライフ』で表現する哲学 (2ページ目)
【ピアノ曲で表現する哲学】
岸辺に打ち上げられた"生活の残骸"のような風景が演出されたリンク。何者かによって、生命が何ひとつない荒廃した地上に生み出された主人公の「Nova」。言葉が音になって体に入り込む彼は、音に導かれて命の意味を探す。
「小さい頃から、いろいろなものが音として聞こえてきたタイプだったんです。絶対音感があるというのではなく、なんとなくメロディー的な感覚で聞こえてくるような感じがしていて。そういった自分の経験だったり、また、フィクションとして描く中で、"この子"にどういう能力を持たせようかと考えた時、自分が表現のトレーニングとしてやっている言葉の抑揚であったりとか、意味であったりを表現するということを物語の中に入れ込んで。哲学が音として体に入ってくる。そして、その哲学が音楽になってプログラムが出来上がるみたいなことを発想しました」
ベンチの上に置かれていた日記を手に取ると、誰だかわからない者たちの憎悪や希望などのさまざまな思いを綴る文字が、音になってNovaに襲いかかってくる。
『ピアノコレクション』と題された短い5曲で構成したプログラムでは、それぞれの言葉や事象に翻弄されながらも戦い続ける。
「新プログラムを作る中で、クラシカルなものをやりたい気持ちがあったのと、今回は哲学をテーマにしていたのでピアノの旋律などの気持ちが凛とするような曲を多めに選んでいます。そのストーリーを描く中で、ここは戦いたいところだ、ここは芯を持つべきところだ、ここは言葉をそのまま使いたいところだ、などといろいろ考えた中で、選曲にこだわったという感じです」
空中に吊り下ろされた大きな白い布のスクリーンと氷上。その白一色の世界に、音符となって流れ込む音の激流の中で心の葛藤を表現する。
そして見つけた「運命を信じたい」という思い。氷上にい続けた羽生はそのまま『バラード第1番ト短調』を、4回転サルコウや4回転トーループ、トリプルアクセルを入れて舞う。白の世界で滑る彼の周りには、プロジェクションマッピングで表現された、細い糸になって絡み合う"運命たち"が、その思いを祝福するように舞って荘厳な世界を作り出す。
「一番悩んだのは、ピアノのクラシック曲の連続のところから『バラード第1番』にいくというのが、今までやったことのない、リンクから一回もはけないで30秒間ずつくらいの間隔でずっとプログラムを演じ続けるところでした。あそこはピアノの清塚信也さんと一緒にクラシックのことも勉強し、どういう意味をこめて弾くのか。また振り付けを頼んでいたジェフリー・バトルさんとも、こんなイメージで滑りたいと話し合い、本当に綿密に計算しながら作りました」
羽生がそう語る十数分間続くプログラムだ。
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