ポスト宇野昌磨の行方は? 日本男子フィギュアの新時代が幕開け、鍵山優真は「争っていく強い覚悟」 (2ページ目)
【「宇野選手の代わりにはなれない」】
「(会見で)みんな顔を合わせることができて、この中で気持ちを高めて、争っていく強い覚悟を持ちました」
会見に出席した鍵山は、囲み取材でその気持ちを語っている。昨シーズンの世界選手権では2位。4回転を連発したマリニンには敗れたが、4位だった宇野を上回り、必然的に「ポスト宇野」と目される。ただ、鍵山本人はその気負いはない。
「僕が宇野選手の代わりになることはできないです。僕ひとりで(男子フィギュア界を)背負っていくつもりはないですし。日本男子みんなが強くなって、切磋琢磨している状況なので、(人気とは別に)パフォーマンスのところしかできないですけど、少しでもスケートの魅力が伝わったらいいなって思ってやっています」
実に誠実な答えだろう。実際、一人ひとりが選んだプログラムを滑り切るしかない。
「今までは"思い切りの良さや疾走感で滑る"って感じでしたが。自分もハタチを越えて、これからは大人っぽく、シニアの貫禄のある滑りを目指せたら、と考えています。4回転ルッツは単発ではよくなっているし、フリーではフラメンコ初挑戦で、足の細かいステップだけでなく、手の表現も入れられるように。インターバルトレーニングも取り入れました」
そう語る鍵山は着々と変貌を遂げ、新たな姿を見せようとしている。王座に最も近いことは間違いない。
一方、山本も王者の座に肉迫する。ジュニアまでは天才的スケーターとして名声を誇っていたが、足首の骨折でキャリアは急転。しかし懸命に再起をかけ、しばらくは悔しい試合が続くも、一昨シーズン、グランプリファイナルで2位に入り、高らかに復活を示した。
「洗練」
それを新シーズンの目標に掲げたが、よりコンプリートな演技を目指す。苦難を乗り越えたスケーターは勝負強い。
そして伏兵は、氷上で格闘する気概を見せる三浦だろう。
「後先考えないジャンプ」(宇野)
そんな表現もされるほど、少しもブレーキをかけない。その大胆さは彼の代名詞。そうした色がつくこと自体、表現者としては可能性だ。
「自分の場合、割り切ってやったら、割とうまくいくって思っています。成功と失敗の間にあるギリギリの駆け引きの中で。やりたいスケートを前面に出していきたいです」
三浦は不敵に言う。
他にも、佐藤、友野は実力者と言える。高橋大輔の背中を追う三宅星南(全日本選手権9位)も、どこまで迫れるか。女子のように十代の選手の台頭が乏しいのは気になるが...。
「フィギュアはひとりでたくさんの人に囲まれてリンクに立ちます。それは孤独で。でも、だからこそ感動させられるのかなって」
そう言った宇野の極意に近づけるのは誰か。新シーズンが火ぶたを切った。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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