検索

高橋大輔のパイオニアとしての熱量がほとばしる アイスショー『滑走屋』に込めた思い (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【スケーターの選択肢を広げたい】

 特筆すべきは、高橋が『滑走屋』にショー未経験の若手スケーターたちを多く招き入れている点だろう。チャンスを与え、新たな可能性を広げた。

「競技では4回転ジャンプとかが目立つと思うんですが、たとえジャンプが跳べなくても、フィギュアは感動できるところがたくさんあって。若いスケーターが今回の経験を経て、ジャンプだけが魅せることじゃないって思ってもらえるのが大事で。細かい立ち位置、振り付けのカウントやニュアンスを突き詰めて、(足や腕の)ひと振りにもこんな意味があると感じてもらえたらいいなって思っています。僕たちも今のままではダメで、新しい挑戦を感じてもらえたらって」

 つくづく、高橋のパイオニアとしての熱量は並外れている。若いスケーターたちを巻き込み、フィギュアスケートの明日をつくる。

「スケーターとしてタレントはあるのに、成績を残せなかった時、就職か、引退か、になって。(演技を)披露する場があったら、そっちを目指す選択肢もあるかも知れない。このチームに入りたい、とスケートを続ける可能性も広げるはずで」

 高橋はソロのトリ、『Flame to the Moth』を激しく踊ったが、ゲネプロではアクセルも跳ばず、途中、荒い息遣いで苦しそうに中断した。

「自分のナンバーは、今日は抜いた部分もありました。自分以外の滑走に関する振り付けにけっこう時間を割いてきたので、ソロナンバーには割けていなくて(苦笑)。今日、ご覧になった方には伝わらなかったかも知れませんが、初日(2月10日)から全力で、9公演で最高の出来になるように!」

 高橋は人懐こい笑顔で言った。現役時代から本番に強い。観客の熱で、すべてのピースがそろう。

『滑走屋』は2月10、11、12日(1日3公演)、合計9公演が行なわれる予定だ。

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る