三原舞依は逆境をエネルギーに コーチの言葉を力に「こんなところで終わったらあかん」 (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【全日本まで死にもの狂いで】

 11月25日、フリースケーティング。三原は9番目の滑走だった。青を基調にイエローやオレンジが濃淡に重なった衣装で、胸元から背中、手首にも銀色の石が散りばめられ、小さな惑星を思わせた。使用曲『The Planets』の世界観とリンクしていた。

「足の状態は朝と試合の時は全然違うので、6分間練習で(構成も)決めようと思っていました」

 三原は語っていたが、予定構成からジャンプの順番だけでなく種類も変更した。

 冒頭、ダブルアクセル+3回転トーループを着氷。幸先のいいスタートで、予定していた3回転ルッツ+2回転トーループ+2回転ループ、3回転フリップも降りた。ただ、回転不足の判定で、次のサルコウは2回転になった。やや厳しい判定もあったが、コンディションが十分ではないなか、スピードが乗りきらず、本人は不本意だったろう。

 そのなかでも、彼女は力を振り絞るように滑った。3回転ループの失敗はあったが、3回転ルッツ+2回転トーループ、3回転サルコウは降りた。スパイラルやバレエジャンプは華やかで、シットスピン、足換えコンビネーションスピンもレベル4だった。

 演技を終えた彼女に、歓声が降り注いだ。109.82点の9位で、総合は172.64点で8位。昨シーズンのGPファイナル女王としては悔しいだろうが、現時点で最高に近い演技だった。そこまで持っていけたのは「三原舞依だったから」と言える。

「ケガから復帰して滑るのは怖くないんですが、ジャンプを跳ぶ怖さはまだあって。やっと跳べるようになって、それをプログラムに入れるとなった時、一個一個を集中してやるんですが、まだ途切れ途切れ。ここで深呼吸しているな、と自分が見ていてもそう思います。途切れさせない演技が自分の持ち味だと思うので、完璧にやれるように練習したいです」

 三原は自らを叱咤するように言った。

「トップレベルにたどり着くことを考えると、練習が足りていない。全日本まで1カ月、死にもの狂いで。痛みを抑えながら練習していきます!」

 彼女は努めて明るく言った。12月、長野での全日本選手権が次の舞台だ。

プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。

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