鍵山優真「今季は全部うまくいかないと思った」からの北京五輪出場へ。浮上のきっかけはコーチである父からの一言だった (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【「五輪は無理なんじゃないか」】

 シニアデビューした昨季に世界選手権2位まで駆け上がったことで、今季はプレッシャーもあった。挑戦することで重圧を跳ね返そうとして、フリーでの4回転ループの導入にもトライ。だが、なかなかうまくいかず9月末の関東選手権は261.90点で、10月のアジアントロフィーは277.78点。そのためGPシリーズは4回転ループを中断し、4回転は昨季と同じサルコウとトーループ2本の構成にしていた。しかし、GP1戦目のイタリア杯はSPでミスを重ねて80.53点の7位発進と落ち込んだ。

「五輪に出られる可能性があるひとりとして練習してきましたが、試合では苦しい演技がすごく続いて、今季は全部うまくいかないんじゃないかと思うくらいにネガティブになったし、自分には今回の五輪は無理なんじゃないかとすごく不安な気持ちになりました。だから全日本前は五輪のことをあまり考えないようにして、とりあえず全力を尽くせれば、選ばれても選ばれなくてもいいんじゃないかと考えるようにしました」

 そう気持ちを切り替えられるようになったきっかけは、イタリア杯のフリーだった。SPのショックな気持ちを引きずり、フリー当日朝の公式練習でも落ち込んでいた。だが、練習のあとに正和氏から「去年の成績や立場は関係ない。今できることを思いきりやるだけだ」と言われたことで前を向いた。

 新たな気持ちで臨んだそのフリーは、4回転サルコウや後半の4回転トーループの加点こそ伸びなかったが、ノーミスの演技で昨季の世界選手権で出した自己最高を6.68点上回る197.49点。合計を278.02点にして逆転優勝を果たしたのだ。

 続くフランス杯では、SPで世界選手権以来の100点台に乗せる100.64点で、合計をシーズンベストの286.41点にして優勝。心の揺れは徐々に収まってきていた。

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