紀平梨花が不本意な結果から得た学び。「強気で、楽しく、前向きに」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 高橋 学●写真 photo by Takahashi Manabu

 屈託のない、おっとりとした声音で説明することで重大事に聞こえなかったが、緊急事態である。荷物を落として拾おうとすると痛みが出た。アイシングし、湿布を貼って、消炎鎮痛剤を飲むしかない。休養が最善の処方箋だが、目前に戦いが待っていた。

「さすがに4回転サルコウは無理かなって。(トリプル)アクセルは『入れる』と言い切れないですが、入れたいです。ショートもフリーも様子を見て決めようと思っています」

 周囲の期待に、彼女は競技者の使命感をにじませていた。

 そして15日のショートプログラム(SP)、紀平は使用曲『The Fire Within』でトリプルアクセルを入れる。練習を休んだことで体全体は軽かった。スタートポジションに入る前、自ら口角を上げて、体をポジティブに制御していた。

「(会場に)来る前はダブルアクセルと決めていたんですが、思った以上に跳ぶ感覚がよかったので、せっかくだから(トリプルアクセルに)挑むべきだって。それでミスしても、挑戦したからこそ学べるものがあるので。やるって決めたら、何があってもあきらめず、強気で、楽しく、前向きに」

 紀平はそう言ってアクセルに挑んだ。結果は軸が後ろに傾いてしまい、着氷はできなかった。しかし、勝負に挑むメンタルは瞠目に値した。

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