羽生結弦、世界選手権フリーを詳細分析。会見で見せた笑顔のわけ (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 田口有史●撮影 photo by Taguchi Yukihito

 この世界選手権の最大のテーマは健康なままで戦い抜き、何の不安もなく日本に帰ることだった。ぜんそくの持病がある羽生だからこそ、新型コロナウイルスの感染への対応は慎重だった。

「帰国後2週間の隔離を含め、健康で大会を終えること。自分が感染をしてはいけないし、感染を広げてはいけないという思いはすごくあります」

 羽生はそう話した。そんな気遣いも、精神面で重荷になっていたはずだ。それとともに、彼が大きな目標としていたのは、北京五輪の3枠獲得。全日本王者として果たさなくてはいけない責務と感じていた。個人の勝利より、彼自身が優先していたもので、だからこそ自身の敗戦を素直に受け入れ、チェンの演技について「4回転5本をあのクオリティですべて決めて、プログラムを完成させるのは並大抵ではないこと。彼の努力のたまものだと思っている」と讃えたのだ。

 戦いを振り返れば、ルール改定後の公認の自己最高得点を出した2019年のスケートカナダのときより、構成は落として基礎点の上限は2.08点低くなっている。スケートカナダの演技は、冒頭の4回転ループがわずかに減点されていただけに、それを上回ってチェンに競り勝つことも可能だった。だが、『天と地と』を披露するのはまだ2回目で、熟成させきっているとはいえない状態。もし今回ノーミスの演技ができたとしても、勝負は微妙なものになっただろう。

 それでも羽生は、今回の演技に手応えを得ている。自分がまだ成長し続けている、と。羽生は明るい笑みを浮かべながらこう語った。

「今の羽生結弦は(18年の)平昌五輪や、17年のヘルシンキの世界選手権のときより確実にうまくなっていると思うんです。ジャンプはあのときより1本少ない7本だし、後半の4回転はサルコウではなくトーループにしていて構成の難度は落ちているけど、ノーミスや崩れなくなった確率はあの頃より高くなっている。以前は、できても『偶然、ゾーンに入ってできました』みたいな感じでしたが、今はそれを狙えるようになっているので。結果が出てなくて苦しいと思うこともあるし、今回に関しては点数が出ないジャンプだったし、演技だったと思う。でも、点数以上にトレーニングしてきたことが間違いなかったな、という感触もありました」

 羽生がこの日見せていたのは、前を向いているからこそ輝く、自分への期待を表わす笑顔だった。

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