2021.02.08

羽生結弦の王者としての覚悟。「新しい扉を開ける存在になりたい」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

『羽生結弦は未来を創る〜絶対王者との対話』
第Ⅴ部 プログラムの完成(4)

数々の快挙を達成し、男子フィギュアスケートを牽引する羽生結弦。常に挑戦を続ける強靭な精神力と自らの理想を果敢に追い求める情熱を持つアスリートの進化の歩みを振り返る。世界の好敵手との歴史に残る戦いや王者が切り拓いていく未来を、長年密着取材を続けるベテランジャーナリストが探っていく。

2015年GPファイナルで『SEIMEI』を披露する羽生結弦
 2015ー16シーズン、羽生結弦は3戦目でノーミスの演技を達成した。それは『SEIMEI』というプログラムに対する羽生の思いの強さが現れたものだろう。シーズン2戦目のスケートカナダで思うような演技ができず味わった屈辱は、その思いをより強固なものにした。のちに彼自身、「スケートカナダから(3戦目の)NHK杯までの練習は、自分史上初めてと言っていいくらい追い込むことができた」と話したほどだった。

 だが、それはまだ到達点ではなかった。次のグランプリ(GP)ファイナルのフリーでは、最初の4回転サルコウと4回転トーループでGOE(出来栄え点)満点の3点を得るジャンプで滑り出すという、NHK杯よりさらに高い完成度を見せた。ステップシークエンスこそレベル3となったが、ジャンプは8本中5本でジャッジのGOE加点3点。技術点はNHK杯を2.05点上回る120.92点。演技構成点もスケーティングスキルとトランジション以外の3項目は、9人のジャッジ中6、7人が満点の10点をつけて98.56点で世界最高得点を更新。世界中に「これが羽生結弦のSEIMEIだ」と認めさせるプログラムに仕上げていた。

 2戦連続の総合300点超えの偉業を達成した後、羽生はこう話していた。

「以前は点数にこだわっている時期がなくはなかった。(練習拠点の)カナダへ行ってそれ(300点超え)を狙える構成があると知って、もっと点数をもらえる構成にしなければいけないと考えていました。ただ、今この『SEIMEI』を作ってもらい、(ショートプログラムの)ショパン(の『バラード第1番』)を延長してやってみての感想としては、やっぱり難易度だけがすべてというわけじゃないと思うんです。そういう演技を常に目指していけたらいいな、と。