熱狂する観衆、クールな羽生結弦。
完璧な王者がリンクに帰ってきた

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA/Noto Sunao

 2月16日に行なわれた男子フィギュアスケートの個人SPで、羽生結弦は周囲の不安を振り払う完璧な演技を披露した。

見事に復帰戦を飾り、SPを終えてトップに立った羽生結弦見事に復帰戦を飾り、SPを終えてトップに立った羽生結弦 右足首のケガで3カ月間のブランクがあり、復帰戦がいきなり平昌五輪という大舞台だったにもかかわらず、昨年9月のオータムクラシックで記録したSPの歴代世界最高得点にあとわずかまで迫る111.68点を出し、堂々のトップに立った。

 羽生の演技を待ち望んでいた観衆の大歓声とは対照的に、演技後の羽生の表情は、興奮のかけらもない極めて冷静なものだった。

「とにかく"満足"という気持ちが一番ですね。今は明日があるということが頭の中の6割くらいを占めています。せっかく早い時間に試合が終わりましたから、しっかり明日に向けて調整をしたいと思います」

 久しぶりに声援を聞いて「リンクに帰ってきたんだな」と感じたという羽生は、スケートを滑る幸福感を存分に味わった。得点や順位はまったく意識せず、「自分のコンディションの中でできることをやろう」と思っていただけだったが、演技の完成度の高さは、オータムクラシックを彷彿(ほうふつ)とさせるものだった。

 しかし羽生は、オータムクラシックと平昌五輪での演技の違いを自ら、こう分析した。

「オータムクラシックはわりと『ジャンプをこなした』というか、痛めていたヒザのことを考えながら滑っていた記憶があります。でも、今日はそういうのは関係なく、この構成をベストな状態で滑ることができました。曲を体で感じながら、曲に対しての自分の解釈や、観ているみなさんの解釈に、ちょっとでも触れられるような演技をしたいと思っていました」

 16日朝の公式練習での曲かけ練習で、繰り返し跳んで失敗もあった冒頭の4回転サルコウに若干の不安があったというが、本番ではスピードをあまり上げない状態でフワッと跳んでみせた。あえてスピードと勢いをコントロールし、穏やかな演技の流れの中にジャンプをはめ込んだような印象だった。

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