言い訳はいらない。羽生結弦が描く逆転優勝へのシナリオ (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao

「感想は『悔しい』のみですね。ルッツ+トーループは曲をかけて滑る時にはなかなか入らなかったので、そのジャンプが(そのまま)出てしまったと思います。氷の上にあがった時に、(テレビ中継の)アナウンサーの方の声が少し聞こえたんですが、いつもはそうしたことはないので、少し集中力が切れていたのかもしれません。自分の甘さだったと思いますけど、曲がかかって息を吐いた瞬間には集中できましたし、周囲の人たちが考えているような痛みはなかったです。だから、ジャンプの失敗は今の自分の実力だと思います」(羽生)

 それでも、SP前の公式練習で見せたジャンプの質は、3週間前の中国大会より良くなっていたという印象だ。ウォーミングアップを終えてからルッツの入りを2回試したあとでクリアに決めた3回転ルッツは、中国大会の公式練習時のような軸の緩みはなかった。3回転ルッツ+3回転トーループもきれいに決め、トリプルアクセルは、転倒や着氷の乱れもあったが、一度踏み切りのタイミングを確かめると完璧に跳んでいた。

 成功したジャンプに共通していたのは、力みのなさだった。今のコンディションを考えて体力温存の意味もあっただろうが、中国大会時の「跳ぶ!」という過度な力みが薄れているように見えた。

 6分間練習ではさらに力みのない踏み切りと回転で、3回転ルッツからの連続ジャンプも4回転トーループもきれいに決めた。万全と思える仕上がりだったが、本番ではまさかの失敗。その理由を、羽生は冷静に分析していた。

「昨日と今日の公式練習もそうですけど、曲がかかると力が入るので、その力みがパンクにつながっていると思ったんです。だから、今日の本番に向けては力を抜いてというか、リラックスして跳ぼうという感覚がありました。でも、本番の失敗したジャンプのスロー再生を見て思ったのは、逆に力が入っていないなということでした。力を抜いてというのが、少し過剰な方向に行き過ぎた感じだったというのはあります」

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る