井上尚弥戦も控える中谷潤人は「KOにこだわるアーティストになりたい」 ティム・ウィザスプーンと過ごしたフィラデルフィアで抱いた決意 (4ページ目)
中谷はフィラデルフィアの魅力を述べた。
「映画の舞台、ロッキー像、ジョー・フレージャーの銅像、自由の鐘、名物のフィリー・チーズ・ステーキ、そして、4日目にフィラデルフィア美術館のなかで見た作品の数々と、すべてに人間の歩みを感じました。長く人々の心に訴えてきた芸術なんだなぁと、心が熱くなりましたね。集まるべくして、あの土地に集まったものですよね。
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鐘もそうですし、ロッキーも、なぜフィラデルフィアで生まれたのかを感じ取ることができました。美術館では、緻密さの積み重ねが大きなアートになっている様を目にしました。アーティストたちがいかに努力しているか、どれだけコツコツやってきたかが作品を通じて見えましたね。
ボクシングと共通しています。例えば、ひとつのパンチをこのタイミングで打つ。ある角度から打つ。ステップのバランスが、ほんの少しでも崩れていたら相手に当たらないといった調子で、繊細さが求められます。それがだんだん大きくなって、コンビネーションやカウンターを打つこと、あるいは相手の攻撃をかわす動きなどに結びつきます。だからこそ、トップ選手はアーティストの域に達するんだと、美術館で再確認しました。
絵でも、ステンドグラスでも、陶器でも、見せ方はいろいろありますが、作者の思いや、心が篭(こも)ってひとつの形になっていく。ひとつひとつ作り手の情熱が注がれているからこそ、芸術になるんですね」
フィラデルフィア美術館の作品に、自身に通じるものを感じたという中谷この記事に関連する写真を見る
フィラデルフィア美術館には24万もの作品が展示され、倉庫にはさらに20万もの芸術が保管されている。中谷は数々の美術品を噛み締めるように見ながら、自分のボクシングについて想いを巡らせた。
「思いを形にしていくのがアートだと思います。たくさんの良質な作品を見られたからこそ、僕も自分について考えるきっかけを与えてもらいました。通じるものが、数えきれないほどあったんです。自分もアーティストのひとりとして、ボクシングを作品とし、多くの人に見てもらって感動してもらえたらいいな、と思いました。
同じ作品を前にしても、感じ方は十人十色ですよね。僕のパフォーマンスを見て、好きだって言ってくれる人もいれば、そうじゃない人もいます。もっともっと突き詰めて、自分のボクシングを完成させたい。KOにこだわるアーティストになりたい、とフィラデルフィアの5日間で更に決意が固まりました」
ティム・ウィザスプーンとの邂逅、アーティストへの道。中谷潤人の次章は、フィラデルフィアで始まったのかもしれない。
著者プロフィール
林壮一 (はやし・そういち)
1969年生まれ。ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するもケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。ネバダ州立大学リノ校、東京大学大学院情報学環教育部にてジャーナリズムを学ぶ。アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(以上、光文社電子書籍)、『神様のリング』『進め! サムライブルー 世の中への扉』『ほめて伸ばすコーチング』(以上、講談社)などがある。
【写真】【写真】中谷潤人がティム・ウィザスプーンと巡る、映画『ロッキー』の地フィラデルフィア
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