ケンコバが語る、名レスラー馳浩の「一番ダメな試合」を救った越中詩郎の「震え」 (2ページ目)

  • 松岡健治●取材・文 text by Matsuoka Kenji

――越中さんに再び訪れた「禁断の試合」という試練ですね。

「ただ、この越中さんとの試合で、馳さんはプロレスラーとして一番ダメな試合をしているんです」

―― 一番ダメな試合とは?

「読者のみなさんも、あらためて試合映像を見てほしいんですけど、この試合の馳さんは、自分がやれる技をすべて出しているんです。だけど、まったく観客が沸かない。技を出すのに客席が静まり返るのは、プロレスラーとして一番やってはいけない試合だと俺は思うんです。

 今でこそ馳さんは、常に会場を沸かす"プロレス名人"と評価されていますし、1990年代は新日本の道場のコーチも務めて、第4世代なんて全員が弟子と言ってもいいくらいですよ。レスラーとしても指導者としても卓越した才能を発揮した方ですが、歴史を振り返ると、馳さんが観客を沸かせるようになったのは、黄色タイツになってからなんです」

――この越中さんとの試合では、馳さんはまだ黒タイツでしたね。

「そうです。黄色タイツ時代の大技は、ノーザンライトやドラゴンのスープレックス、裏投げ、ジャイアントスイング、鎌固め、たまにやるラリアットぐらいでした。ところが黒タイツに白のハイソックス、リングシューズもアディダスのスニーカーみたいな時代は、ありとあらゆるプロレス技をやっていたんですよ。振り返ってみたら、みなさん、驚愕すると思います。

 流行りの技を全部やっていましたからね。当時、大人気だった前田日明さんの必殺技フライングニールキックまでやっていたんですよ。想像すらできないでしょ? 馳さんのニールキックって(笑)。ほかにもフライングクロスチョップとか、黄色タイツになってからは使ってない技だらけでした」

――めちゃくちゃ器用ですね!

「でも、逆になんでもできるから、お客さんが乗ってこないんです。技の形もきれいで、完成度も高いのに客席は静まり返る。地獄のような悪循環でした」

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