「選手ではなく、自分を責める」井上康生監督。史上最強の柔道ニッポンに育てあげた (3ページ目)

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
  • photo by JMPA

 モットーが、『熱意、創意、誠意』。選手や担当コーチ、裏方スタッフとも熱意を持って誠実に接する。昨年2月、五輪代表内定発表会見では、落選した選手のことを思い、つい涙を流した。道を極めるプラスになればと、選手たちに陶芸、茶道、書道などにも触れさせた。

 古賀さんなど多くの柔道関係者の夢が詰まっていた東京五輪。そこでも井上監督は選手が勝っては泣き、負けては涙を流した。結果、日本男子は7階級で史上最多の金メダル5個を獲得した。井上監督はこうも漏らした。

「(個人戦で)惜しくもメダルを逃した向(翔一郎)、原沢(久喜)に対しては、非常に申し訳なかったという気持ちです」と。

 表彰式に参列した人格者、山下泰裕・全日本柔道連盟会長(日本オリンピック委員会会長)に井上監督の功績を聞けば、「とても大きいと思います」と言った。

「非常に選手たちに寄り添って、何かうまくいかないことがあると、選手たちではなく、自分を責める。常に周りから学ぼうという姿勢があるから、日々、成長しているのを感じますね。これから、もっともっと、器の大きい人間になっていくと思います」

 井上監督はあくまで謙虚だった。実直、誠実だった。最後にこう言った。

「9年間、すばらしい選手やコーチ、スタッフ、またライバル、そしてサポートしてくださった方々、柔道に声援をいただいた方々に対して、心から感謝の気持ちでいっぱいです。この経験を次なるステージにどう生かしていくのか。さらなる努力をしていきたい」

 最高の柔道家、井上康生の『柔(やわら)の道』はまだ、続くのである。

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