伊調馨は気持ちで負けた。「相手との感覚が掴めない。だから、怖い」
6月13日~16日、レスリング明治杯全日本選抜選手権が駒沢オリンピック公園総合運動場体育館で行なわれた。
4日目の最終日、2020年東京オリンピックで個人種目初の5連覇に挑む伊調馨(ALSOK)と、リオデジャネイロオリンピックで金メダル獲得後に世界選手権2連覇中(2017年・2018年)の川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)が激突。注目の女子57キロ級を制したのは、後者の川井だった。
川井梨紗子に敗れて肩を落とす伊調馨 この結果により、オリンピック出場権のかかる世界選手権(カザフスタン・9月)の代表争いは、昨年12月の天皇杯全日本選手権で優勝した伊調と、今大会優勝の川井によるプレーオフに持ち越された。プレーオフは7月6日、埼玉・和光市総合体育館にて行なわれる。
伊調は全日本選手権以降、田南部力コーチのもとで徹底的に鍛え直し、4月のアジア選手権に出場。準決勝でチョン・ミュンスク(北朝鮮)に敗れてまさかの黒星を喫するも、国際大会という貴重な舞台を久々に経験した。
さらに5月には、東京オリンピックの事前キャンプ地視察で岡山市を訪れたブルガリア女子レスリングチームと合同練習を敢行。世界ランキング2位のビリャナ・ドゥドバとスパーリングを重ね、復帰後から課題と言われている「腰高な姿勢」を修正した。
昨年12月の全日本選手権で、伊調は川井と1勝1敗。予選では「恐怖心が先に立ち、タックルに入れなかった」ことで敗れたものの、決勝では土壇場でポイントを奪い、逆転で勝利をもぎ取った。
後手にまわった前回の対戦を振り返り、今回、伊調サイドの作戦はいたってシンプルだった。
「タックルに入り、先取点を奪う」
先制して試合の流れを掴めば、川井が焦って反撃してきても、伊調は難なく防ぐことができるだろうと考えた。さらに川井が無理やり飛び込んでくれば、カウンターで返して加点することも可能だと。
伊調も川井も順調に勝ち上がり、迎えた16日の決勝戦。ふたりの名前がコールされて、両者がマットに上がると、場内の雰囲気は一変した。張り詰めた空気が一気に弾け、大歓声とともに拍手やスティックバルーンを打ち鳴らす轟音が会場を包み込んだ。
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