まさかの敗北。伊調馨が這い上がるためにいま、思い出すべきこと (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 試合終了後、伊調の口から最初に出た言葉は、「対応できなかった」だった。

「自分のレスリングができませんでした。試合への入り方が悪く、最後までいい状態に修正できなかった。なぜ、あそこまでできなかったのか、これから考えます。

 アジア大会の(ミョンスクの)映像を見て、若くて力のある選手だから、前半から入ってくるとは思っていました。ですが、組み際からのタックルが強烈で対応できませんでした。

 1回戦から、腰が高いことは自分でも感じていました。腰高だから(1回戦で)バッティングされたわけです。今回の課題だったのに、まったくダメでした。ディフェンスも弱すぎ。組み手の練習が足りない。反応が鈍い......」

 3位決定戦、ベトナムのグエン・ティミチャンには2分24秒フォール勝ち。格の違いを見せつけ、銅メダルは死守した。

 だが、外国人相手の試合で試そうとしたこと、確認しようとしたことは何もできぬまま、アジア選手権を終えてしまった。それどころか、ライバルの川井に「勇気を持って懐(ふところ)に入れば、伊調にタックルを決めることができる」という自信をつけさせてしまったかもしれない。

 ただ、リオデジャネイロオリンピック以来、2年8カ月ぶりに国際大会に出場したことは、大きな糧(かて)となったに違いない。負けたことによって得た収穫は、必ずあるはずだ。

 自分から組み合い、相手をしっかりと崩してから攻撃するのが、リオまでの伊調の持ち味だった。だが、組み際からの攻撃を理想のスタイルとするあまり、結果的に腰高になり、相手にその間合いを利用されてタックルに入られた。腰高ゆえに一気に倒される防御の甘さが露呈した。

 長期休養からの復帰以来、それは課題でありながらも直し切れなかったウィークポイントだった。腰高を完全に直すには、ここで負けたほうがよかったのかもしれない。

 ALSOKの大橋正教監督は敗戦後、「原点に戻るしかない」と語った。

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