丸山城志郎と阿部一二三の交差する想い。2人の死闘はこうして生まれた (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by PHOTO KISHIMOTO

 一方の阿部も、あくまで一本にこだわった。

「相手が出てくるのはわかっていたので、指導はとくに意識しませんでした。たしかに、あと一歩で指導を取れそうなシーンもあったけど、そのあと一歩が届かなかったので。指導を狙わずに自分も投げにいっていました」

 ともに死力を尽くす戦いとなったが、ゴールデンスコアに入ってからは、明らかに阿部の疲労が色濃くなっていった。

 そんな戦いのなかで会場が沸いたのは、延長5分57秒で阿部の技ありが宣言された時だった。だが、直後に取り消されることになった。

 丸山は「あれは、技ありではなかったと思っていたので、焦ることはなかった」と冷静だった。阿部も「決まってくれればよかったけど、なければなかったかでまたやるだけだと思っていた」と振り返った。

「内股で投げたいと思っていたので、それを徹底した」と言う丸山は、その後も内股を仕掛け続けたが、「自然に出た」と言う巴投げで阿部の体勢を崩し、最後は"浮き技"で技ありを取って勝利を手にした。13分23秒の壮絶な戦いだった。

 試合後、丸山は次のように話した。

「最後は気持ちの戦いだったが、気持ちの面でも僕が上回っているのを見せつけられたのはよかったし、自信につながる優勝でした。大学生の時に左ひざを手術して、そこから2、3年は勝ったり負けたりしていて。本当に年齢的には遅咲きですが、手術をしてから勝てない時期があったので......本当に僕には熱い思いがあるし、誰よりも勝ちたいという気持ちが強いと思います」

 そして力強く、こう続けた。

「最終目標は東京五輪で優勝なので、そこまでの過程をひとつひとつクリアし、技に磨きをかけて内股で投げ切れる選手になりたいと思う」

 一方、「あと一歩が届かなかった」と言う阿部は試合後、次のように語った。

「去年の世界選手権以降は不本意というか、悔しい時期が続いているが、これもひとつの壁だと思うので、しっかり乗り越えて東京五輪を目指したい」

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