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「あきらめない男」が殴り勝って
3階級制覇。その名は、長谷川穂積 (4ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by Nikkan sports/AFLO

 何度も「辞めて安定した生活を」と訴えていた父・大二朗さんは、勝利の瞬間、子どものように飛び跳ねて喜んでいた。

「ウィラポン戦(2006年)が蘇った。やられてもやり返す、すごい息子です」

 リング上の勝利者インタビューで、長谷川は「夢のようです」と満面の笑顔で語った。

「"負けたら引退"を覚悟した選手は負けると、たくさんの人に言われました。でも、僕は負ける気は一切なかった」

 前回敗れたキコ・マルチネス(スペイン)との世界戦は、2014年4月23日。それは、6年前に55歳で死去した母・裕美子さんの誕生日でもあった。安堵の表情で、長谷川が続ける。

「(前回の世界戦で)誕生日プレゼントを渡すと決めて試合に臨んだんですけど、負けてしまって。2年越しになりましたけど、誕生日プレゼントを渡せて幸せです」

 マルチネスとの試合に敗れ、引退が囁(ささや)かれたとき、長谷川はこんなことを言っていた。

「自分が偉大なボクサーとして人の記憶になんか、残らなくていい。それよりも、母が、いろんな人の記憶から薄れていくことが寂しい」

 勝利者インタビューで、「この対戦を受けてくれたウーゴ・ルイスに尊敬の念を込めて、拍手をお願いします」と対戦相手への敬意を表し、「この勝利は、まだ半分。次の山中選手の試合に僕以上の声援をお願いします」と、7月に合同キャンプを行なった山中へのエールを求めたのが、なんとも長谷川らしかった。

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