「日本の柱」石川祐希はイタリアでやるべきことを知っている (2ページ目)

  • 柄谷雅紀●取材・文 text by Karaya Masaki
  • photo by Sakamoto Kiyoshi/AFLO

 西田は振り返る。

「すごく温かい言葉をかけていただいた。それが5セット目に生きたと思います」

 5セット目、石川の言葉に支えられた若き点取り屋は立て直した。ブロックで相手エースを止め、スパイクを決め、サービスエースも奪った。「みなさんが引っ張って戻してくれた」と西田は言った。

 時には、激しくチームを鼓舞した。10月10日のロシア戦は第1セットを奪ったが、第2セットをあっさりと落とした。「もう一回(チームを)締めないといけないなと思った。第3、第4セット目は、そう意識して言葉をかけていました」と振り返るように、コート上では周囲に輪ができ、中心にいる石川が何度も声をかけていた。

 プレー面でもメンタル面でも"日本の柱"に成長した23歳は、イタリアで過ごす今季、何を目指すのか。

 答えは2つあった。ひとつは、体力を強化すること。15日間で11試合という長丁場のW杯を戦い抜き、「前半はよかったけど、後半に体力がもたないところがあった。スパイクをしても、ディフェンスをしても、パフォーマンスが落ちないプレーヤーになることを、この1シーズンで目指していきたい」と力強く言った。
 
 そのためにトレーニングをするのはもちろんだが、「試合でも積極的に打ちにいくし、拾いにいく。カバーやブロックフォローに入ったり、トスを上げにいったりということしたい。運動量をコートの中で上げることを課題として取り組んでいきたい」という。
 
 東京五輪では2日に1試合のペースで行なわれるため、今回ほど過酷な日程ではない。しかしW杯のように、開催国の特権で試合開始時間が固定されるようなことはない。そして、対戦相手も強豪国ばかりになってタフになる。体力は今以上に必要になるかもしれない。

 プロ1年目だった昨季は、ケガをしない体を作ることと、全試合スタメンで出場することを目標に掲げ、見事にそれを達成した。きっと、彼ならこの目標にも達することができるだろう。

 そしてふたつ目は、相手と駆け引きする力だ。優勝したブラジルとの第2セットでの出来事を、石川は鮮明に覚えている。22-21でライト側にいる石川にトスが上がった。相手のブロックは3枚。一番アンテナに近い位置にいたリカルド・ソウザからブロックアウトを取るべく、スパイクを打った。しかし、石川が打つ直前にリカルド・ソウザがブロックに出していた両手を引いていた。結果はアウトになった。

「ひとつ先のプレー、相手のプレーを読んで動いている」

 バレー王国ブラジルを背負う、世界最高のエースのひとりとの差を、石川はそう語った。だが、今はまだ差があっても、世界のトップ選手が集まるイタリアでプレーするからこそ、その差を埋めることができるとも考えている。「技術がないとできないこと。それをすることによって、技術力は間違いなく上がると思う」。先を読み、相手が嫌がるプレーを身につける。これも、今季の自分に課した課題だ。

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