「スポンサーがなくなって、本当によかった」錦織圭が絶賛したフォアの持ち主・綿貫陽介の才能がようやく開花した (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

【自分はそんなに特別ではない】

 ただその間にも、コロナ禍もあってランキングは伸びず、2021年末には300位台にまで落ちる。

 結果が出ないと背を向けられるのは、スポーツビジネスの非情な現実。2021年末には日清食品がテニス界から撤退し、所属先を失った。ルコック、そして大塚製薬との契約も切れたのも同じ頃。スポンサー収入を大きく失い、「2022年は、ほとんど賞金しか収入がない状態でツアーを周っていた」と兄は明かす。

 だが、裸一貫の状況になり、ようやく「本人も現状認識ができた」と兄は見る。

「賞金を稼ぐ段階になって、陽介も初めて、自分がそんなに特別ではない、世界にはすごい人がいるとわかったようです。新しく何かに取り組まなくてはいけないと本人がわかったのが、すごく大きかった」

 フィジカルトレーナーを雇い、根本から自分のテニスを作り上げようと決断したのも、昨年のこと。

「スポンサーがなくなって、本当によかった」

 兄はポツリと、そう言った。

「陽介のフォームが、ジュニアの頃と今では全然違うと思ったんです」

 昨年の夏から綿貫に帯同している長田光生トレーナーは、久々に綿貫のテニスをじっくり見た時、そんな印象を抱いたという。

「ジュニアの時は全身をしならせて、大きなエネルギーを生んで打っていた。それが今は、大人のテニスに対応するため、コンパクトでシンプルになっていました。

 ただその分、パワーが出しづらくなっているはず。彼はフォアが武器だと僕も思っていますが、ベースの筋肉をもっと上げないと、前みたいなボールは打てないと思いました」

 そこで始めた取り組みは、極めて基本的なものだった。

「エネルギーの最大値を上げるために、まずはベンチプレスやスクワット、デッドリフトみたいな、全身を使って高重量を扱うトレーニングを中心にやる。次に、パワーをテニスの動きにつなげるトレーニングに移行します。

 なかでも重要なのが、上半身と下半身のバランス。彼は下半身の力が強いので、上半身を鍛えてバランスを取り、それぞれの動きをうまく連係していくんです」

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