全米覇者なのにもっとも未完成。大坂なおみこそ「絶対女王」の最有力 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 加えて今回は、5年を数えたシンガポール開催最後の年であり、連日、往年の名選手たちが揃って出席するセレモニー等も行なわれていた。応援する観客たちの熱量も大きく、それら高揚感と感傷が交わる独特のムードが選手たちの闘志を掻き立てた側面もあるだろう。

 世界の4位として今大会に初出場した大坂なおみにとっても、それは同じだったはずだ。

 9月の全米オープンで優勝した大坂は、日米双方でのメディア対応に追われた後に、熱狂の渦となった東レ・パンパシフィックに出場して準優勝。その後は武漢、香港と出場予定だった2大会を体調不良等でスキップしたが、出場したチャイナオープンではベスト4と、いずれも好成績を残してきた。

 抱えた疲れは、想像に難くない。だが、「全米後の大きな目標だった。出られるだけでも栄誉」なこの大会が、残された気力の最後の一滴を振り絞らせていた。

 大坂本人は、心身の疲労や苦悩について多くを語ろうとはしない。

 ただ、コーチのサーシャ・バインは、大坂とチーム全体が直面してきた重圧についてこう口にした。

「実は、なおみは全米後に体調を崩していた。ただ、彼女だけでなく、チーム全体がそうだった」

 その理由をバインは、「おそらくは、ストレスのせいだろう」と推察する。

「僕自身も熱があり、気分もすぐれず、胃もムカムカしていた」

 自身ですらそれだけの状況に陥っていたのだから、大坂が背負ってきた重みは想像を絶するものだったろうと、青年コーチは21歳を迎えたばかりの教え子を気遣った。

「全米優勝の直後に東京に来て、スポンサーの社長や会長たちが見るなかで戦うことが、どれだけすごいことか......」

 もし、自分が同じ状況にいたならば、残りの試合には出場せずに身体を休めただろう――。それがコーチの偽らざる想いだったという。

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