前人未到の全仏V10。ナダル圧勝の原動力は「毎日の不安」にあった (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 その結果がどこに至るかは、時が教えてくれるのだと彼は言った。

 大会前に積み上げた多くの勝利は、体力を奪う以上に、自信と勝利の喜びをナダルに与えていたようだ。全仏が始まり30歳として戦った3試合、全試合ストレート勝利で失ったゲーム数はわずかに15。特に6-0、6-1、6-0で勝った3回戦のニコロズ・バシラシビリ(ジョージア)戦は、後にナダルが「今大会で最高のプレーだった」と振り返るブースター的な一戦だった。

 その3回戦の翌日に誕生日を祝い、31歳として戦った4試合でもまた、ナダルはひたすらに強かった。

 準決勝のドミニク・ティエム(オーストリア)戦、そして決勝戦のスタン・ワウリンカ(スイス)戦はいずれも「立ち上がりはとても緊張した」と言うが、唸り声を上げてボールを叩き、赤土を跳ね上げ走りまわることでプレッシャーを振り払い、最終的には試合を完全に支配する。決勝戦も大方の予想を覆し、2セットを連取したナダルが第3セットでも大きくリードし、ワンサイドゲームの様相を呈した。

「試合中に、勝利を確信した瞬間はあったか?」

 優勝会見で聞かれたその問いは、普段のナダルなら、言下に否定されるものだったろう。だが、このときのリアクションは、いつもとは少し異なっていた。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る