元世界4位のクルム伊達公子だからわかる「錦織君は今が苦しい時期」 (2ページ目)

  • 長田渚左●文 text by Osada Nagisa  photo by TISCH(takahashi office)  小菅孝●ヘア&メイク hair&make-up by Kosuge Takashi  西尾妹子●スタイリング styling by Nishio Maiko

――うーん、人間は一筋縄ではいかないのですね。こんなに努力して苦しい思いで闘ったのだから、結果はついてきて当然ぐらいに思えてもよかったように思えますが......。現在活躍している錦識さんをどう思いますか? 以前に天才だと評価していました。

「今、 彼は一番苦しい時期だと思います。100番から50人を抜かす、50番から30人を抜かすなど、いろいろな段階がありますね。あと数人を抜かせば、トップ にいけるといっても、上位の顔ぶれはノバク・ジョコビッチなど3人、5人と同じなのに、その数人を抜かすのが本当に容易なことではなく、一方で肉薄してく る下の選手には負けられない。

 自分が100%の力で闘うのは当然なのですが、1週間、グランドスラムなら2週間を闘い抜かなくてはならな いうえに、最後に近づくほど、最高のものを出さないと進めない。心理的にもかなり追い詰められるうえに、チャレンジできる余裕もなくてはならない。本当に きついですよ」

――錦識さんを16歳から見てきた解説者のフローラン・ダバディ氏に話を聞くチャンスがありました。錦織さんがもうひとつ上 にいくためには『テニス人生の先に何をやりたいか?』という思いや野望、あるいは映画監督や建築家など、異業種の人との出会いから刺激を受けることなどが 大切なキーになるのではないかと言っていました。どう思いますか?

「ダバディさんの言っていることはとてもよくわかります。私も6歳からテ ニスをやってきて、彼は中学生でアメリカに渡って、テニス漬けの生活をしてきています。アスリートとしての時間ばかり、スポーツに費やす時間ばかりで生き てきています。いろいろな視野を持てるかどうかはとても大切です。ただ、それは私も引退して気づいたことでした。

 たとえば......先月の全仏 オープンで地元のリシャール・ガスケに負けましたよね。その2つ前のスペイン(マドリードオープン)での対戦では、08年のジャパンオープンからの6戦全 敗だった苦手の相手にストレート勝ちして、次のイタリア(ローマオープン)でも勝って、『さぁ、次も』という気分だったのに、ガスケの地元で、ああいう形 になるのは、絶対に嫌だったはずなのに、ああなってしまった」

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