天然ではない。「まったく覚えてない」錦織圭の思考回路

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

 自身が制御できることと、そうではないことを峻別(しゅんべつ)し、コントロール可能な事象のみに集中するのが優れたアスリートに共通したメンタリティ、とはよく聞く話だ。

 錦織圭も、己の力が及ばぬ世界について無駄に悩んだり、心配したりすることを好まない。過去の出来事にとらわれて、あれこれ思い出を巡らせることもない。

降雨順延でも崩れることなくボレッリとの一戦を制した錦織圭降雨順延でも崩れることなくボレッリとの一戦を制した錦織圭 5月22日に開幕した、全仏オープン初戦の錦織対シモーネ・ボレッリ(イタリア)。

 このふたりの顔合わせで多くのテニスファンや関係者が思い出すのは、2年前のウインブルドンで、3日間にわたり繰り広げられた接戦だ。2014年、ウインブルドン3回戦。土曜日に行なわれた錦織とボレッリの一戦は、ファイナルセットのゲームカウント3−3になった時点で、日没のために中断。悪いことに、ウインブルドン大会中の日曜日"ミドルサンデー"は、試合を行なわない決まりだ。そのため試合は、終盤も終盤に差し掛かったまま、40時間近くも宙ぶらりんとなる。

「こんな経験は初めてだったので、メンタルがとても疲れた。夢にも出てきて、3−3の場面から2ゲームやっていました」

 勝利後にそう告白するほどに、このときのボレッリとの一戦は、錦織のキャリアのなかでも特異な経験であった。

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