F1ニューマシン解体新書。異なる方向性のトップ3、最適解はどれだ? (2ページ目)
昨年のメルセデスAMGは、前半戦はフェラーリ、後半戦はレッドブルを相手に苦戦を強いられ、これまでのような圧倒的な速さでタイトルをもぎ取ったのではない。時には最速ではないマシンをチーム総合力でトップフィニッシュさせる苦しいシーズンだった。それを踏まえ、メルセデスAMGは「自分たちの最大の弱点はリアタイヤ」と結論づけて、その改善を最優先に進めてきた。
テクニカルディレクターを務めるジェームス・アリソンはこう語る。
「昨年のW09は前年型に比べて、ハンドリングが大幅に向上した。得意なサーキットではコンペティティブな力を発揮することができた。しかし、リアタイヤのパフォーマンスを引き出すという点では、ライバルほどいい仕事ができなかった。そこでW10ではタイヤに優しいマシンにするため、サスペンションと空力特性の改善に多大な努力を注いできた」
ただ、基本的なコンセプトは、ほぼそのままを踏襲している。パワーのフェラーリ、空力のレッドブルに対し、メルセデスAMGはやはり総合力での勝負だ。特徴的なロングホイールベースもそのままだ。
「W10は従来と同じホイールベースと基本アーキテクチャーを踏襲している。すべてをこれまで以上にタイトにスレンダーに進化させ、コンセプトをリファイン(洗練)し、空力パフォーマンスを向上させた」(アリソン)
パワーユニットも従来のコンセプトを踏襲しながら、ERS(エネルギー回生システム)マネジメント改善によるエネルギー回生量の増加を図ったり、冷却補器類のレイアウトを見直して空力性能やパワーユニットの効率を向上させるなど、地道な開発を進めている。レース中のディプロイメント(エネルギー回生)時間でフェラーリに劣っていたことが、シーズン前半戦の苦戦の要因だったからだ。
メルセデスAMGはロングホイールベースにせよ、吊り下げ型のフロントサスペンションによるノーズ下の空力優先にせよ、かなり特殊なマシンだ。マシン全体を前傾させて空力性能を稼ぐ「流行りのレイク角」もほとんどない。
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