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『ウマ娘』人気もあって引退後に知名度が増した「名脇役」ナイスネイチャが日の目を見た日 (2ページ目)

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara

 GIIの一戦ながら、この日の中京には役者がそろっていた。前年のダービー馬・ウイニングチケットをはじめ、前走のGⅠ宝塚記念(阪神・芝2200m)2着から挑むアイルトンシンボリに、その年の秋にはGⅠジャパンカップ(東京・芝2400m)で戴冠を遂げるマーベラスクラウン、そして才能豊かな牝馬のスターバレリーナらである。

 好メンバーが集結するなか、ナイスネイチャの戦前の評価は5番人気だった。レースがスタートすると、休養明け初戦で大きな注目を集めていたウイニングチケットが中団につけ、ナイスネイチャはその後方を追走。向正面に入ってから、ナイスネイチャは徐々にポジションを押し上げていった。

 4コーナーに入ると、各馬が一斉にスパートをかける。スターバレリーナが先頭に立ち、アイルトンシンボリがそれに続く。マーベラスクラウンも後方から必死に追い上げてくる。注目の1番人気ウイニングチケットは休養明けのせいか、エンジンがかからない。

 実力馬たちによる熾烈な争いのなか、抜群の手応えで外から上がってきたのが、ナイスネイチャである。まったくの馬なりで先頭集団に並びかけるレースぶり。いつもは一歩足りないこの馬が、そんな戦績を微塵も感じさせないような走りを見せた。

「今日のナイスネイチャは違うかもしれない」――この時点で、そう感じたファンも多かったのではないだろうか。

 実際、ナイスネイチャの勢いはまったく衰えず、鞍上のアクションに応えて先頭のスターバレリーナをかわして、そのままゴールに飛び込んだ。勝利から見放されていたような馬が、この日は完璧なレースで白星をつかんだ。

 名脇役というポジションに定着していたナイスネイチャが、ついに主役になったのだ。場内からは自然と拍手が湧いた。

 その後も13戦をこなしたナイスネイチャだが、このレースが最後の勝利となった。通算成績は41戦7勝、2着6回、3着8回。3着の多さから「ブロンズコレクター」とも称された。

 そうして引退後、ナイスネイチャは思わぬ形で注目を集めるようになる。35歳まで元気に暮らし、サラブレッドとしては大往生を遂げるのだが、29歳となった2017年以降は毎年、ナイスネイチャの誕生日(4月16日)に引退馬の支援金を募る寄付イベント「バースデードネーション」が実施されてきた。『ウマ娘』での人気も重なって、年を追うごとに寄付金は増加した。

 ナイスネイチャが亡くなったあとも同イベントは継続され、2025年には5000万円以上の寄付が集まったという。現役時代の名脇役が、引退後に主役へ。数奇な運命を辿ったナイスネイチャは、いまだにたくさんの人に愛される名馬である。

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