平成競馬の衝撃。ディープインパクトは新たなヒーロー像を生み出した (2ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • 小内慎司●撮影 photo by Kouchi Shinji

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 記憶に残るレースを挙げればきりがないが、なかでも強く印象に残っているのは、2005年(平成17年)の日本ダービー(東京・芝2400m)。

日本ダービーを圧勝したディープインパクト日本ダービーを圧勝したディープインパクト パドックでは尻っぱねをして、入れ込むというより、もはや「暴れ回る」と言ったほうがいいぐらいの状態だった。あの興奮具合では、いかにディープインパクトといえど、「あれで普通に走れるのか」「今回は危ないかも」といった危惧を抱いたことを覚えている。

 実はこのダービーだけでなく、ディープインパクトの三冠レースでは"あわや"というシーンが常にあった。

 皐月賞ではスタート直後、いきなり躓(つまず)いて、騎手が落馬寸前にまで体勢を崩した。もし、あそこで落馬していたら、今日のような"ディープインパクト・ストーリー"は歴史に刻まれていなかったに違いない。

 ダービーではパドックで入れ込んでいただけでなく、スタートも出遅れた。そして菊花賞では、好スタートを切ったところまではよかったが、直後の3コーナーあたりから引っかかって、グイグイと前に行きたがった。あの時、京都競馬場を埋め尽くした13万人強の大観衆から、悲鳴のような歓声が起こったのをよく覚えている。

 しかし、そんなアクシデントなどどこ吹く風で、ディープインパクトは三冠レースのすべてを危なげなく制している。

 そのなかでも、日本ダービーのディープインパクトが、最もディープインパクトらしく勝った。ゆえに、同レースが心の中に強く刻まれている。

 スタートで出遅れながら、2着馬に5馬身もの差をつけての圧勝だった。

 あの最後の直線――広々としたターフの上を最後方から追い込んで、ライバルたちをゴボウ抜きしていった。

 ひとつ勝つことさえ大変と言われる三冠レース。並みの馬なら致命的ともなりかねない不利やアクシデントがありながら、まるで何事もなかったように、実に軽々と、それも見方によっては"楽しそう"に走って勝ったのである。

 そこに、悲壮感などまったくない。

 その時のディープインパクトの様子を、鞍上の武豊騎手はこう証言した。

「直線では、喜んで走っていました」

 喜んで走ってダービーを勝つ馬などいただろうか。

 ディープインパクトがどれほど優れた馬なのか。その点については、これまでいろいろと分析され、そのうえでさまざまな賛辞が送られてきた。

 だが、そこに綴られた万余の言葉よりも、武豊騎手の証言に優る言葉はない。

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