2013.04.21

【競馬】小牧場の悲哀「走る馬なのに買ってもらえない」

  • 河合力●文 text&photo by Kawai Chikara

「例えば、海外のセリ市に行くと、ほとんどのバイヤーが最初から最後まですべての上場馬をチェックします。でも日本では、"目当ての馬"しか見てもらえないケースが多いんです。そして、その"目当ての馬"は、まず牧場名で絞り込まれる割合が高いのです。これはセリ市だけでなく、牧場巡りにおいても同様です。ということは、開場したばかりの牧場や、名の知られていない小さな牧場はつらいですよね。いくら魅力的な仔馬を生産しても、バイヤーの方に見てもらう機会を作るのが難しい、ということですから。そのためにもまず、牧場の印象を残す必要があるのです」

 スウィーニィ氏が感じた日本と海外の差。これが、彼にブランディングの重要性を気づかせる契機となった。

 しかし一体、なぜそのような差が生まれるのだろうか? 要因のひとつとして考えられるのは、馬に対する文化の違いだ。

 例えば、スウィーニィ氏の母国アイルランドでは、小さい頃から馬と触れ合ったり、乗馬を経験したりする人が非常に多く、隣国イギリスでも乗馬文化は定着している。そのような中で、自然と馬に対する知識を養っていく。

 対して日本は、普通の生活の中で馬と触れ合う機会はほとんどない。乗馬をしたり、馬の生態について学んだりした経験のある人も少ないだろう。イギリスなどに比べると、馬は「身近」な存在ではない。

 とすると当然、馬主となって購入馬を選ぶにしても、自らの目で馬体の良し悪しや、脚元の作りをチェックするのは、かなりハードルの高い作業だ。結果、実績のある牧場や規模の大きな牧場の"ブランド"を信頼し、その中から購入馬を選ぶ形が増えていくことになる。そこに、日本と海外の差が生まれるのだろう。

 これは仕方のないことだが、中小牧場にとっては喜ばしいことではない。

 さらに、そのような背景から、日本の馬主の多くは、自分で購入馬を探すのではなく、調教師にその作業を任せている。つまり、懇意の調教師に購入馬を選んでもらい、名前の挙がった馬を馬主が買うという流れだ。

 そしてこれも、ブランド重視の流れは変わらない。知らない牧場の馬を購入しても、馬主がまず納得しないため、任された調教師は、どうしても関係性の強い牧場や、自厩舎の管理馬が多数いる、実績のある牧場を優先してしまうからだ。