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【欧州サッカー】「ライアン・ギグスがイングランド人だったら...」 ウェールズ人ドリブラーを見た者は同じ妄想を抱いた (3ページ目)

  • 粕谷秀樹●取材・文 text by Kasuya Hideki

【ジダンも脱帽するほどの名手】

「もし、ギグスがイングランド人だったらなぁ」は、イングランドの総意といっても過言ではなかった。クラブ間のライバル意識が強すぎた当時の話とはいえ、あのドリブルを見た者は誰もが同じ妄想を抱いたのではないだろうか。

 ウェールズで生まれたギグスは、ワールドカップやヨーロッパ選手権とは縁遠かった。2012年のロンドンオリンピックはグレートブリテン(イングランドとウェールズの2協会の選手で構成された統一チーム)のキャプテン(オーバーエイジ枠)として出場したが、決勝トーナメント1回戦で韓国に敗れている。

 だが、「イングランドに生まれればよかった」とか「ウェールズは決して強くない」などの愚痴は決して吐かなかった。常に淡々と、それでいて勝負どころではギラつき、マンチェスター・Uに多くのタイトルをもたらしている。

 ウイングから中盤にポジションを移したプロキャリアの晩年も、絶妙のパスワークと高度な状況判断で攻撃のリズムを創った。ウェイン・ルーニーやクリスティアーノ・ロナウドを自在に操りもしていた。ギグスに始まり、ギグスに終わる試合も少なくはなかった。

「もしギグスがフランス人だったら、私は控えに甘んじていただろう」

 ジネディーヌ・ジダンが脱帽するほどの名手だった。

 2014年5月19日、ギグスは現役を退いた。公式戦963試合はイングランド歴代1位だ。デビュー以降、23シーズン連続ゴールも前人未到の大記録である。180cm・68kg(公称)と痩身でありながら、ヨガを軸とするケアで長く戦い続けた。

 残念ながら、プライベートはクリーンではない。元恋人や義妹に対する暴行容疑で、2020年11月に逮捕されている。2022年7月に起訴が取り下げられたとはいえ、ギグスのクリーンなイメージを根底から覆す大きすぎる汚点だ。

 その後、表舞台から姿を消した。最近になって時おりメディアにも顔を見せるようにもなったが、まだ人々は許していない。犯した罪の重さを踏まえれば当然だ。

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