なぜプレミアリーグ王者のマンチェスター・シティは勝てなくなった? グアルディオラ戦術の終焉か (4ページ目)
【ウイングの不発と守備の脆弱性】
今季のシティはウイングにかつての威力がない。サビーニョとマテウス・ヌネスは、かつてのリヤド・マフレズやラヒーム・スターリングほどの突破力を示せていない。ジェレミー・ドクは突破力抜群だが、スーパーサブ的な起用になっている。カットイン型のウイングに対してはふたりで守るやり方が浸透していて、ドリブルの威力が半減していることもある。ライン間とサイドの威力が減少すれば、ボールを保持する意味も減少してしまう。これはシティが直面している外圧だ。
ボール保持の優位性が削がれている。ただ、それとは別の問題を露呈したのがリバプール戦だった。
リバプールの4-2-3-1システムに対し、シティはマヌエル・アカンジを「偽CB」とする3-1-4-2。つまり、1対1を10個作る完全マンマーク策を採る。しかし、これは完全に裏目に出た。1対1でリバプールに負け続け、ろくにビルドアップもできないまま前半だけで少なくとも6回の決定機を作られてしまう。
フォーデン、ベルナルド・シウバ、リコ・ルイス、ギュンドアンの主力は小柄で1対1の守備にはあまり向いていない。それでも彼らがいることでライン間の増員や流動性が保てる。シティのプレースタイルの根幹を支える選手たちだ。だが、自ら選択したとはいえ、1対1の戦いに分解されてしまった時にリバプールの優位は明白だった。
これはスポルティング戦の後半にもみられていて、他の試合にも共通していた。相手がリバプールだったので、より脆弱性が明らかになったにすぎない。
可変によるパズルの妙は、シティの際立った優位性だった。偽サイドバックや偽CBを駆使しての相手のプレスの無効化だが、相手もパズルがうまくなったことで効果が減少した。そして、相手もビルドアップを身に着けているので、ハイプレスもかつてほど効果がない。パズルを封殺すべく1対1にすると、フィジカル面で優位な相手には逆に脆弱性をつかれてしまった。こうした流れを見ると、シティの時代は終わってしまったかのように思えるかもしれない。
しかし、リバプール戦でもリバプールが後半に構えて守るようになると、シティはボール保持を回復させ、攻め込めるようになっている。以前ほどの優位性はなくても、まだ大半の相手にシティのスタイルは通用する。自分たちから崩れなければ復活の可能性は残されているはずだ。
ただ、相手を圧倒してこそのシティであり、圧倒できない時はもともとのリスクが顕在化してしまう。本当の意味での復活は、再び相手を圧倒できるかどうかにかかっているのではないか。
著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。
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