三笘薫のドリブルを考察「反発ステップ」「軸足リード」「万事理詰め」で次々に突破
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第8回 三笘薫
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。今回は、ケガから復帰し新シーズンのプレーに期待の三笘薫。プレミアリーグ屈指のドリブラーとなっている彼の相手を抜くカラクリを詳しく紹介します。
【反発ステップ】
ブライトンが来日、プレシーズンマッチを行なった。負傷から復帰した三笘薫も元気な姿を見せていた。負傷明け、プレシーズンでもあり、まだまだトップコンディションではないが、三笘らしいプレーもいくつか見せてくれた。
三笘薫のブライトンが来日。Jリーグ勢とプレシーズンマッチを行なった photo by Kishiku Toraoこの記事に関連する写真を見る 三笘といえば、左サイドを縦に抜き去っていくドリブルが有名だ。
いわゆる「軸足リード」の運び方と、「反発ステップ」が特徴としてよく取り上げられている。
反発ステップの解説動画は一時期、山ほど出回っていたものだが、実は三笘本人の反発ステップの使い方とは微妙に、あるいは明らかに違っているケースが多かった。
解説動画なので、わざとゆっくりやっているという事情もあるのだが、だいたい反発に使う右足の動きが大きすぎるし遅すぎるのだ。三笘の動きを大げさに、ゆっくりやるとこうなるということなのかもしれないが、三笘本人の動きとはまるで別物になっている場合も少なくなかった。
動作としては、右足を下に踏んで地面からの反力をもらって、右足→左足で地面を踏んで前へ出る。ただし、三笘の動作は速く、両足の着地はほぼ同じくらいに見える。反発ステップの爆発力というより、瞬間的にリズムを変えて相手をフリーズさせるために使っていることが多い。
ネイマールがよくやるように、右足をゆっくり上げてから下げ、反発で緩急をつけて飛び出すドリブルをわざと使っている時もあるのだが、どちらかといえばそこまでわかりやすい反発ステップはあまり使っていない。
左足を前、右足でボールを引きずるように動かしながら、瞬間的に「バンッ!」と脅かすような反発ステップの動作を入れて、相手をフリーズさせてから縦へ持ち出していく。脅しの一発目、本当に縦に出る二発目。反発ステップが二段構えになっている感じだ。
最初の引きずる感じの緩いドリブルに合わせて相手も移動するわけだが、三笘がボールを動かしてから動くので、必ず相手の動作は遅れている。そのわずかに遅れて動く相手の重心が浮き、次に沈んで足を着地させた時がボールを前へ出すタイミングになる。着地直後の相手の右足は動かせないので、そのすぐ近くをボールが通っても触れないからだ。
そして、持ち出しでは相手の斜め後方にボールを送る。そうすると相手がボールを諦める。体を止めようとして来るが、前方へ飛び出す三笘と反転している相手では使えるパワーに差があるので、三笘は相手の腕を振り払うように突破していく。
この縦へ抜き去るドリブルが非常に印象的なのだが、これを表芸とするなら、三笘はカットインという裏技も持っている。さらに表裏、どちらにも細かい変化技がついている。縦を防げば中へ、中を防げば外へ。どちらにしても防げないところに三笘のドリブルの特徴がある。そして、この相手次第でどちらにも行けるドリブルの前提になっているのが、ボールの持ち方である。
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著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。