世界のサッカーを変える新しいアイデアは南米から始まった「ロスタイム表示」と「マルチボールシステム」 (3ページ目)

  • 後藤健生●文 text by Goto Takeo

【世界に広まった「マルチボールシステム」】

 もうひとつ、南米発祥で世界に広まったのが「マルチボールシステム」だ。ボールがタッチラインやゴールラインを割ると、すぐに新しいボールが供給され、すぐにスローインやCK、GKで試合が再開される(時には時間稼ぎをするチームもあるが)。

 だが、昔は1個のボールだけを使っていたので、ボールが外に出るとボールボーイがボールを拾ってくるのを待たなければならなかった(今では「ボールパーソン」と言うべきところだが、昔は「ボールボーイ」と言っていたし、実際「ガール」が登場することは滅多になかった)。

 だから、ボールが戻ってくるまでに時間がかかることもあった。

 有名なのは1968年のメキシコ五輪3位決定戦で日本がメキシコに勝利した試合だ。当時の五輪はアマチュアの大会だったが、メキシコはプロリーグの若手選手選抜で(プロ契約前だからアマだという理屈だ)、メキシコの観客は「日本なんかに負けるわけない」と信じていた。ところが、釜本邦茂に2ゴールを決められ、せっかく獲得したPKはGKの横山謙三にストップされてしまったので、アステカ・スタジアムに詰めかけた観客は怒りはじめた。

 メキシコ人サポーターは「ハポン、ハポン、ラララ」と日本を応援し始める。そして、スタンドにボールが入るとそのボールを返そうとしなかったのだ。仕方なく、レフェリーはボールが壊れたりした時のための予備ボールを使うことを決めた。

 アステカ・スタジアムをはじめ、中南米にはピッチとスタンドの間に溝が掘られているスタジアムが多かった。興奮した観客がピッチに乱入するのを防ぐためだ。

 その溝にボールが落ちてしまうと、ボールボーイが先端に籠が付いた棒でボールを拾おうとするのだが、これがけっこう時間がかかるものだった。

 日本ではこんなことがあった。

 日本代表と韓国代表が対戦する日韓定期戦でのことだ。ボールがゴールラインを割って、ゴール裏を転々とした。当然、ゴール裏のボールボーイが拾ってくるはずだ。ところが、ゴール裏のボールボーイは一向に反応しない。

 それは、日が当たる穏やかな午後だった。サッカー人気は低迷しており、せっかくの日韓対決だというのに東京・国立競技場に集まった観客は2万人にも満たなかった(現在のような実数発表だったら、1万人に達していなかっただろう)。

 そんな長閑な雰囲気だったので、ボールボーイは気持ちよく居眠りをしていたのだ。

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