レアル・マドリードを新境地に導いたベリンガム 表舞台と裏方を同時に行なえる逸材

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第1回 ジュード・ベリンガム

日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。第1回は今季レアル・マドリードで大活躍、ユーロ2024でのプレーも楽しみなジュード・ベリンガムです。

【「22番」のプレー。ディ・ステファノを想起させる特徴】

 ジュード・ベリンガムは20歳にして、レアル・マドリード伝説の名手であるアルフレード・ディ・ステファノと比較されている。これは大変な名誉であるとともに過大評価かもしれないが、それだけの理由は確かにあるのだ。

レアル・マドリードのジュード・ベリンガム。ユーロ2024ではイングランド代表での活躍も期待される photo by Getty Imagesレアル・マドリードのジュード・ベリンガム。ユーロ2024ではイングランド代表での活躍も期待される photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る ディ・ステファノは、1950年代に活躍したアルゼンチン出身のスーパースター。レアル・マドリードにチャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)創設以来の5連覇をもたらした立役者である。ただ、その名声も少し後に現れたブラジルのペレには及ばない。ペレは「箱に入れられて世界中に届けられたスター」だからだ。テレビの普及とともに登場したペレの驚愕のプレーは世界中に届けられ、「白いペレ」や「砂漠のペレ」など「××のペレ」を大量に生み出した。

 一方、「××のディ・ステファノ」という表現は、ほとんど聞かない。テレビ時代の前と後による知名度の差もあるが、ディ・ステファノを想起させるタイプの選手も少なかったからだ。

 1970年代に活躍したヨハン・クライフ(オランダ)は「ディ・ステファノの再来」と呼ばれた数少ないひとりだった。プレーメーカーでありゴールゲッター、抜群のインテリジェンスによるフィールドの支配者という点で、確かにディ・ステファノとの類似点は多い。ただ、プレーに関与する総量で本家には及ばなかった。ディ・ステファノにつけられたさまざまなニックネームのなかに「労働者」があるが、これほどクライフに似合わないものもないだろう。結局のところ、ディ・ステファノは唯一無二のままだった。

 ベリンガムが16歳でプロデビューしたバーミンガム・シティでの背番号は、22番である。守備的MFの4番、ボックス・トゥ・ボックスの8番、攻撃的MFの10番、この3つを足した22番を気に入っていて、バーミンガム・シティでは永久欠番になっているそうだ。この22番はまさにベリンガムのプレースタイルを表わしている。この万能性こそ、ディ・ステファノを想起させる特徴でもある。

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著者プロフィール

  • 西部謙司

    西部謙司 (にしべ・けんじ)

    1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。

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