メッシ「人生の大一番だった」。アルゼンチンがオランダ戦で見せた新しい顔とは? (2ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

【メッシと母国アルゼンチンの関係に変化が】

 しかも、誰もそれを嫌だとは思わない。誰もが進んでメッシの役に立とうと思っている。それは唯一メッシだけが、アルゼンチンにタイトルを与えることができることを知っているからだ。たとえメッシがゴールをしなくても、メッシがいるのといないのとでは、チームはまったく別物だ。たとえキリアン・エムバペ(フランス)でも、まだこうはいかないだろう。彼はゴールしてこそ価値がある。

 メッシとアルゼンチンがこれほど良好な関係にあったことは、いまだかつてなかった。まさに蜜月状態だ。メディアやサポーターからの批判もない。

 メッシは長い間、アルゼンチンでは自分は愛されていないと感じていた。いつも非難を浴びせられ、一時期は代表を引退する決断までしたほどだ。メッシはいつもこう言っていた。

「僕はアルゼンチンのために心からプレーしている。プレーが気に入らなければ、拍手しなければいいだけだ。とにかく黙って僕にプレーさせてほしい。そうすれば僕はベストを尽くす。そしてタイトルを勝ち取る」

 だが今は誰も、メッシ本人さえも、そんな過去など忘れてしまったかのようだ。

 変化の要因はいろいろあるが、大きかったのは昨年のコパアメリカでの勝利だ。アルゼンチンは28年ぶりに国際大会でタイトルを勝ち取った。「メッシはクラブチームではあんなに優勝しているのに、代表ではさっぱりだ」などと言う者はもういない。それに、人々は気づいたのだ。メッシを批判するより、彼の味方についたほうが、結局はアルゼンチンのためになる、と。

 ただし、この「メッシのためのチーム」は両刃の剣だろう。よくも悪くもアルゼンチンはメッシ次第。メッシの調子がよければアルゼンチンは安定し、決勝までいけるだろう。だが、もし彼が調子を落としたら? あるいは何かのアクシデントでピッチに立てなくなったら? その途端にアルゼンチンは崩れる可能性がある。いい例がグループ戦初戦だ。メッシのエンジンがかからなければ、アルゼンチンはサウジアラビアにさえ負けてしまう。

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