スペインの栄光なき敗退は必然だった。日本戦に続いて、ボールは支配しても怖さなし (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by JMPA

指揮官は「支配していた」と強弁

 この日は、偽9番としてマルコ・アセンシオがトップを担当したが、センターバックにストレスを与えることができなかった。前線で爆発を起こす選手も不在。レアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオールやFCバルセロナのウスマン・デンベレのようなサイドを崩すアタッカーがほしかった。

 立て籠った城塞の前で銃声を響かせるだけでは、攻め落とせない。後半の終盤に途中投入されたアルバロ・モラタが再三再四、裏を突く形でモロッコを脅かしたが、あと一歩で立ち往生。延長に入って、ニコ・ウィリアムズやアンス・ファティを入れ、攻撃の強度を増したはずだが、迫力を欠いた。

 結局、PK戦でスペインの選手は、耳をつん裂くようなブーイングを浴びることになる。その重圧に負けたのか、キックはことごとく相手GKにブロックされた。スペインはW杯で過去5度あったPK戦、たった1回しか勝っていない。前回のロシアW杯も、決勝トーナメント1回戦でロシアに敗れていた。

「我々が試合を支配していた」

 そう言って胸を張ったのは、敗軍の将ルイス・エンリケである。

「しかし、チャンスをなかなか作れず、ゴールが遠かった。でもチームのパフォーマンスについては満足しているよ。なぜなら、私のプレーアイデアを完璧に実践してくれたからね」

 何よりも、自分のプレーアイデアの実践を評価基準にする点に、人々を苛立たせるエゴイズムを感じさせる。

 ルイス・エンリケ監督はマスコミと犬猿の仲である。会見は毎回、喧嘩腰。同監督はSNSで自ら発信の場を設けるほど、マスコミを信用していない。自らのサッカー哲学を徹底的に信じ、それを実践することだけが正義だと考えているのだ。

 ルイス・エンリケは自らのシステムに選手を当て込んだ。偽9番の採用、本来アンカーであるロドリのセンターバック起用、足元がそこまで得意ではないウナイ・シモンにリベロ的GKを要求。とにかく独善的な言動が目立った。トレーニングにトランシーバを用いたことも(各選手がマイクを装着し、指示が聞こえる)、成果の精度を上げる意図なのだろうが、揶揄された。

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