久保建英の「チームを牽引する」資質が花開いた。「先頭に立つ」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 中島大介●写真 photo by Nakashima Daisuke

「Tirar del carro」

 スペイン語で「一番つらい仕事を引き受ける、先頭に立ってやる」という意味だが、それはエースの条件と言われる。重い荷車を引いていくというニュアンスで、リーダーとしてチームを引っ張るということだろうか。たとえばレアル・マドリードでは、ラウル・ゴンサレス、クリスティアーノ・ロナウドらがその表現の象徴と言われてきた。

 その資質を、18歳の久保は少しの気負いも見せずに示している。

 ビジャレアル戦では、それが結果として出ることになったが、批判がうごめいていた時も、彼のプレー姿勢は揺らいでいない。高い強度の中で精度の高いプレーを見せる――。それを味方と敵のなかで調整してきた。

「久保が先発して勝った初めての試合になった」

 マジョルカのビセンテ・モレノ監督は、試合後の会見で語っている。

「久保はすばらしい選手で、これからもっとよくなるだろう。彼には落ち着いてプレーする環境を与え、成長できるようにしたい。(最近は)攻撃にも守備にも、コンスタントに(局面に)出てくるようになってきた。ビジャレアル戦は、"とてもいい試合をした"と言えるだろう」

 11月の代表戦ウィークを前に、久保はスペインでの本当の意味でのスタートを切ったのかもしれない。

「このゴールが自分に力を与えてくれる」

 久保はスペイン語のインタビューに応じ、そう明かしている。剛胆なルーキーといえども、初ゴールはいつになるのか、という周囲の重圧は少なからず感じていたのかもしれない。心理的な縛りを解かれ、さらなる飛躍のきっかけになるだろうか。

 久保は、過去にスペイン挑戦してきた日本人選手のような問題を抱えていない。まず、語学的なハンデがないし、本来的なコミュニケーション能力が高く、ある種のふてぶてしさも持っている。チームの中で、すでに居場所を作った。スペインの独特のプレーリズムやコンタクトの強さに対しても、バルサの下部組織でプレーしていたことで免疫があって、確実に適応している。そのうえで、持ち前の高いスキルがプレーヤーとしての土台になっているのだ。

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